5人の女の子の部屋と暮らしを描いたコミック&イラスト集『家が好きな人』がベストセラーとなった井田千秋さん。最新単行本となる『ごはんが楽しみ』は「食」をテーマにした初のコミックエッセイ。いつもの朝のたまごサンドやツナチェダーチーズ、好きな具材をテーブルいっぱいに並べた週末のクレープブランチ、お茶の時間のおやつ缶、おばあちゃんの家から譲り受けた食器……。あたたかなイラストとおしゃべりで紡ぎ出される井田さんの食にまつわる情景には、自分好みの暮らしを自分の手で作り上げる楽しさが詰まっています。
心躍るファンタジーは日常のすぐそばの小さな世界に広がっているーーと気付かせてくれる、愛すべき井田千秋ワールドについて話を伺いました。
》『ごはんが楽しみ』試し読みはこちらから
》『ごはんが楽しみ』5万部突破記念 感想募集キャンペーンも実施中!
「ごはん」がテーマになった理由
――『家が好きな人』は架空の女の子の家の話でしたが、『ごはんが楽しみ』は井田さん自身の生活を描いたものです。
『家が好きな人』は、本当に架空の世界の架空のキャラクターの話だったので、今回はまったく別物ですよね。もともと個人的な創作物として自分が「こんな生活いいなー」と想像したものをイラストで描いていたので、自分のことを描くという発想はなかったんです。
6年ほど前に、同人活動で『たとえばの話』というイラストエッセイを描いてみて、自分の話をする面白さを感じましたし、それまで同人誌で作ってきたようなイラスト集だけでなく、読み物作品ももっと作ってみたいと思うようになりました。そんなタイミングでコミックエッセイを描きませんか?という話をいただけました。
――今回「ごはん」というテーマはどうやって決まったのでしょう。
最初は特にテーマを決めずに描こうと思っていたんですが、初めてのコミックエッセイだから何かテーマを決めた方が伝わりやすいんじゃないかというアドバイスをいただいて。これは描けそうだなという題材を箇条書きで書き出していったら、食にまつわることが多かったので「ごはん」になりました。
「いつも通りの食卓」の魅力
――井田さん自身、食べることが好き?
すごいグルメとか料理好きというわけではないし、特に食事にこだわりのある家で育ったわけでもないんですが、ふと気が付くと今日はなにを食べようかな?と考えています(笑)。うちの母親がちょっとなにか食べたいなというときに家にあるものでぱぱっとおいしいものを作るのが得意な人だったんです。前日のおかずの残りで小さい手巻き寿司みたいなのをちょこっと作って、私も相伴にあずかったり。私自身も凝った料理よりは「いつも通りの食卓」みたいなものが好きで、日々のごはんをちょっとした工夫で楽しむことに喜びを感じるんですね。
――「朝のパン」ひとつとっても、たまごサンドにポテサラトースト、バナナトースト、あんこと苺と生クリームをトッピングした苺大福風トーストなど、バラエティに富んでいて日々食べることを楽しんでいる様子が伝えわってきます。他にも「お気楽 家中華」や「家パスタ」など、作中に登場するごはんは、井田さんの日常に根ざした気取りのないものばかりです。
自分のごはん生活を描くにあたって「嘘は描かない」ことは第一に考えていました。自分の日常を人に見せるとなると、映えを意識して普段は作らないような料理を作ったり、凝った盛り付けをしたり、つい普段とは違うことをしてしまいそうでしたが、それはやめて、本当に自分の日常になっていることだけを描こうと。
だから本を読み返すと、同じようなものばかり作ってるなと思いました。「朝のパン」でも卵を挟んだものが2種類もあったり。もっとバリエーションを出した方が本としてはいいと思うんですけど。
2024.11.23(土)
文=井口啓子