好きなものに囲まれた生活を描く
――セブンイレブンの中華惣菜を3つ選んでハイボール片手に配信映画を見る「コンビニごはんの夜」とか、豪華でも映えもしないけれど、だからこそ真似したくなる。そんな「等身大の生活の匂い」は『家が好きな人』しかり、井田さんの作品に一貫して感じられるものです。
雑誌のグラビアみたいにおしゃれで生活感がない生活もかっこいいなとは思うんですけど、自分にはできない。その人が愛着をもってずっと使っているものは素敵だなと思うし、おしゃれじゃなくてごちゃごちゃしてるけれど、好きなものに囲まれた今の生活が好きなので、それをおもしろがりながら描いています。
――友達の家に遊びに行っても、おしゃれで何もない部屋よりはものが多くてごちゃごちゃした家の方が、その人らしさが感じられて楽しいですよね。
そうそう、本棚とか食器棚とか気になってつい見ちゃったり、これをこういうふうに収納してるんだ、みたいな部分に惹かれます。
ミクロな部分にある「生活の愛おしさ」
――いろんな種類のお茶を小引き出しにざっくり分けて収納している「お茶の話」や、六花亭の空き缶に個包装のいろんなお菓子の残りをつぎたしつぎたしストックした「おやつ缶」の話なんか、まさにそう。井田さんの生活を楽しむ術にワクワクさせられます。
そういうミクロな部分にこそ「生活の愛おしさ」がある。部屋や生活の細々した部分を楽しむことは、ドールハウスを愛でるような楽しさがあるし、描いていても楽しい。本当にちっちゃな世界なんだけど、好きなもので囲まれている。そんな凝縮された暮らしに愛おしさを感じるんです。
――おばあちゃんの家から譲り受けたお皿や長年愛用しているマグカップなど、お気に入りの食器でごはんを楽しむ様子は、それこそドールハウス的なおままごと遊びにも近い。こんな食器でごはんを食べたいなーと憧れた子どもの頃の記憶が蘇ります。
ごはんの楽しみとして食器は大きいですよね。「おままごと遊び」というキーワードは、私自身、今回いろんな話を描いていて頭に浮かんでいたことです。「ごはん」って、決して料理のことだけじゃない。食器とかテーブルとかキッチンとか、いろんなものが相互に作用しあっているもので、そのひとつひとつを「おままごと遊び」みたいにちまちまとコーディネイトすることが好きなんだなと改めて感じました。
2024.11.23(土)
文=井口啓子