井田さんに影響を与えた作品
――お茶の時間を楽しむようになったルーツとして、作中ではあゆみゆい先生の『チム・チム・チェリー!』や山田南平先生の『紅茶王子』などが紹介されています。他に井田さんの生活と作品に影響を与えているものはありますか?
やっぱり『赤毛のアンの手作り絵本』の影響は大きいですね。『赤毛のアン』のエピソードにあわせてカナダ風の家庭料理や小物や生活習慣を紹介した本で、母が持っていたものです。松浦英亜樹さんのイラストも素敵で『赤毛のアン』を読む前から読んでいたかもしれない。「こんな生活素敵だな、可愛いなー」という感性が目覚めるきっかけになったと思います。
――女の子が「こんな生活いいな」と憧れるきっかけとして、少女マンガや児童文学の存在は大きいですよね。
今回ごはんの絵を描いていて、子どもの頃、母親の本棚を眺めるのが好きだったことも思い出しました。『暮しの手帖』とか、ターシャ・テューダーさんの田舎暮らしを紹介した本とか。いろんな人の食卓や生活全般をかいま見ることができるものが好きだったんですね。あとはジブリ作品でも、ラピュタパンとか『魔女の宅急便』のパイとか、アニメーション作品からの影響も大きいと思います。
現実とロマンのちょうどいいバランス
――イラストで描かれたごはんは写真とはまた違って、リアルではないからこそロマンをくすぐるものがあります。井田さんはごはんの絵を描くときに心掛けていることはありますか?
ごはんも部屋も一緒なんですが、現実とロマンのちょうどいいバランスは考えますね。艶や焦げ目などおいしそうだと思うところを少し強調してみるとか、写真そのままに模写するというよりは、絵だからこそできる表現ができたらいいなと思います。だんだん自分なりのポイントがわかってきたので、これからもごはんの絵はいっぱい描いていきたいですね。
――読み手に直接語りかけるような親密な語り口も、井田さん作品の大きな魅力です。
やっぱり、遠い世界の話ではなく読者さんと同じ世界のものとして受け取って欲しい。これからも私が普段楽しみにしていたり、こういうのっていいよねと思っている小さな世界の細々したことを描いていくと思うので、私ならこうするなって、自分の生活と重ねて気楽に読んでもらえたらうれしいですね。
井田千秋(いだ・ちあき)
細やかで生活に寄り添った描写で愛されるイラストレーター・漫画家。著書に『家が好きな人』(実業之日本社)、『わたしの塗り絵BOOK 憧れのお店屋さん』(日本ヴォーグ社)など。児童書の挿絵に『へんくつさんのお茶会』(Gakken)、『ぼくのまつり縫い』シリーズ(偕成社)など。
ごはんが楽しみ
定価 1,760円(税込)
文藝春秋
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2024.11.23(土)
文=井口啓子