この記事の連載

 累計発行部数10万部の人気コミック&イラスト集『家が好きな人』。著者の井田千秋さんは、美術系の学校へは進学せず、会社員を経験した後にイラストレーターになりました。これまでの道のりについて伺います。

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家族の影響を受けながら、漫画が身近な環境で育った

――井田さんは、昔からイラストを描くのが好きだったんですか?

井田 そうですね。家族が漫画やアニメ好きだったから自然と好きになって、気が付いたら絵を描いていました。少し上の世代で流行った漫画も読めたのは贅沢でしたね。

 一番上の姉と私は、5歳ほど離れています。そして、母は『ベルサイユのばら』(集英社)や『日出処(ひいづるところ)の天子』(KADOKAWA)などのほかに児童文学全集も集めていて。住んでいた埼玉県の実家には、階段をあがったところに本がいっぱい積んでありました。

――美術館などにもよくいらしたんですか?

井田 頻繁ではないですけど、たまに。といっても、中高生のころは行きませんでした。アートというよりは漫画やイラストが好きで、描くのもかわいい女の子のバストアップや顔ばかりでしたから。

 中学ではバドミントン部、高校では合唱部に入部しました。高校は特に忙しい部活だったこともあり、部活が生活の中心のような日々を送っていたので、絵を描くのが好きだったのに少しずつ離れてしまいました。

――描かなくなった時期もありますか?

井田 全く描かなくなったのは、社会人になってからですね。IT関係の会社に就職して、家と会社を往復する毎日。休日は疲れてクタッと寝ていました。そのうち、好きだった映画やカフェへ行くこともなくなって、どんどん無趣味になっていったんです。

 20代後半になるとその後の人生について考えるようになりました。「趣味がないのに、将来は楽しいのかな」って考え始めて。「これはまずいな」、と。まずは自分が何を好きだったのかを思い出すために、絵を描き始めました。

2023.05.26(金)
文=ゆきどっぐ