地方出身の女性だけ男子から言われる“言葉”
こうした、中高一貫校出身者との対比として現れる地方女性の困難の背景は、親の学歴、文化的資源の少なさ、周囲に東大出身者の少ないこと(東京大学進学を勧める親族や東大に進学した先輩・同級生が周囲にいないこと)による情報の不足など、前述した地方女性の特徴に由来するといえます。
当事者ではない東京圏男性・女性からは、次のような意見が出ています。
自分の経験のみからのきわめて主観的な考えですが、私の友人の東大男子たちほど東大女子に対してリスペクトをもって接してくれた集団はなかったように感じます。その関係は現在までずっと続いています。(…)大学として、女子差別をなくそうという取り組みはよいのですが、もうそろそろ女子男子の区別なく、差別をなくそうで良いのではと感じます。(東京圏女性Cさん)
女子学生の間で東京出身者と地方出身者の置かれている立場の差を、卒業後10年以上経ってやっと自覚しました。恥ずかしながら自分が恵まれている方であることをやっと知りました。男子学生も地方出身の女子学生へのあたりが強い場合があり改善できればいいのにと思います。例えば、化粧をしていなかった時、東京出身の私は「俺は○○さんに男扱いされていないから化粧をしてもらえないんだ」と言われていましたが、地方出身の友人は「女のくせに化粧くらいしろ」と言われていました。(東京圏女性Dさん)
わたしは東京で生まれ育ちましたが、旅先の○○〔ある地方都市〕で「高3のお嬢さんはつぎは大学に?」「いえ、女の子だから短大へ」「そうですよねー」という会話を聞いて驚いたことを忘れられません。20年くらい前のことですが、自分がその土地に生まれていたら、果たして大学に進学するガッツがあるだろうか? と何度も思いました。(東京圏女性Eさん)
ほんの数年前、ゼミで一緒だった女性東大生から、地方の女性中高生を取り巻く厳しい現状を聞きました。「女は短大でよい」「大学は地元国立のみ、上京不可」などと家族や周囲に言われる中、高成績を叩き出して抵抗を続け、半ば喧嘩別れのような形で実家を飛び出してきた女性東大生が少なくないそうです。(…)当然、みんな実家とは気まずい関係だそうです。(東京圏男性Fさん)
東京圏出身の女性であるCさんは、自身の経験から、東京大学の男性学生は女性学生を「リスペクト」していた、それゆえに差別解消の取り組みにおいて性別を重視する必要はないと述べています。

しかし、Dさんが指摘しているように、東京大学では、男性学生の地方女性への差別があることや、たとえ同性であったとしても地方女性の困難を知り、理解するのは難しいことがわかります。そして、地方女性の困難を理解するためには、自分が同じ立場だったらどうだろうという想像力(Eさん)や自分とは異なる属性(性別や出身地)の人と接する機会(Fさん)が必要です。Fさんが聞いた話は、親との仲の良くなさが、東大進学に必要だった一例ともいえるでしょう。
〈〈Youは何しに東大へ?〉「官僚」でも「商社」でもない…「東京大学」卒業生に人気の“仕事”とは〉へ続く


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2025.05.07(水)
文=久保京子