日本の最高学府「東京大学」。傍から見れば「勝ち組」「学歴エリート」の学生たちも、人知れず苦悩を抱えている。例えば「女性であること」「地方出身であること」による“差別”に直面することもあるといい「地方出身女性だけ言われる心ない言葉」もあるのだとか。『「東大卒」の研究 ——データからみる学歴エリート』(本田由紀編著、久保京子、近藤千洋、中野円佳、九鬼成美著、筑摩書房)より、久保京子氏が執筆した章から一部抜粋してお届けする。(全3回の1回目/2回目を読む3回目を読む

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 これまで、アンケート調査の結果から、地方女性の特徴を明らかにしていきました。ところで、東大卒業生調査には自由記述欄が設けられています(設問「東大の卒業生としてのご経験や、東京大学が改善してゆくべき事柄について、あなたのお考えを自由にお書きください」)。寄せられた自由記述から、地方女性の特徴について見ていきましょう(引用は原文ママ)。

 いくつかの回答では、地方女性の困難についての記述が見られました。彼女たちは、自分たちと、首都圏中高一貫校出身者との違いを身に染みて感じているようです。

「地方出身とは付き合うメリットがない」

 東大生には大きく2種類いました。1つは首都圏出身で中高一貫私立出身の人たち。彼らは、親が大企業につとめていて、小さい頃から教育や文化資本に恵まれ、卒業後には有名企業や高収入の仕事に就くことを最初から計画しているようでした。一方、もう1種類は地方出身でなんとなく東大に入った人たち。私は後者で、ただ勉強が好きだったので面白い人たちに出会えるかなと思って東大に入った。(…)実際はまったく違い、勉強だけしてきた男子校出身者が多数。そしてなにより、地方出身者と、首都圏中高一貫出身者のあいだには大きな分断があり、交わることがなかった。彼らの方が、地方出身とは付き合うメリットがないと区別していたのだと思う。大学時に交際した人も、仲良くなった人も、みな、地方の県立高出身者だった。(地方女性Aさん)

 地方出身者でかつ、女子であるという学内でのマイノリティとしては、首都圏や大都市圏出身で学内外での繫がりも広く優秀な周囲の学生についていくのはとても大変でした。東京大学を出て10年以上経ちますが、今なお東京圏中心の男子学生が多いのは、私のような背景を持つ学生へのケアやフォローが不十分または周知されていないことも一因ではないでしょうか。学生自身の奮起を促すのも大事ですが、東京大学がより多様な背景(出身地、経済状況)の学生を育てられる大学であってほしいと思います。(地方女性Bさん)

 Aさんは、首都圏出身者と地方出身者で経済的・文化的な豊かさや、入学時点の将来設計で違いを感じているようです。また、東京大学に入学しても多数派である「男子校出身者」「首都圏中高一貫校出身者」との間に分断を感じていることがうかがえます。

 Bさんもまた、「首都圏や大都市圏出身」者と比べて、自身が「地方出身者でかつ、女子であるという」東京大学の少数派であると感じています。また、「東京圏中心の男子学生」が多数派であり続けている理由として、地方女性へのケアやフォローが不十分であるという指摘をしています。

2025.05.07(水)
文=久保京子