ポイントは「胸郭」

 ためしに肩甲骨に意識を集中しながら「万歳!」をしてみてください。思っていた以上に肩甲骨が動くことに気付くと思います。

 生まれてきたときは、この複雑な構造が見事に成立した状態ですが、年を取るとその力関係が崩れます。「手を上げられない」「何もしなくても肩が痛む」などの症状、さらには「肩こりのだるさ」など不定愁訴も、多くがこのメカニズムで発生しているのです。

 これらを考慮したうえで、肩のアンチエイジングを考えると、「胸郭」がポイントになります。

 胸郭とは、胸椎や肋骨など胸をとりまく骨格のことです。中高年になると、胸郭の動きが悪くなり、それに連動して肩甲骨をうまく動かせなくなります。

 その結果、上腕骨と肩甲骨を繋ぐ4つの筋肉のうち、骨との繋ぎ目にある腱板が劣化して(退行変性)、切れやすくなる。こうなると、ちょっとした外傷やストレスが加わっただけで「腱板断裂」したり、いわゆる「五十肩」を起こしたりします。

「腱板断裂」は、その名の通り腱板が切れてしまう病態です。ただ、完全に切れてしまうことばかりではなく、部分的な断裂もあります。

 しかも、断裂したからと言って必ずしも痛みが出るわけでもないのが特徴です。ある調査では、腱板が完全に切れている人のうち20.7%は痛みを感じていない――という結果が出ています。無症状のままなら、他の筋肉が働き、生活には困りません。

 ただ、痛みが出てしまうと日常生活に影響が出ます。手を上げるのがつらいので、電車やバスのつり革につかまりづらくなるし、重いものを持ち上げられなくなります。

 一番分かりやすいのが、鍋やフライパンを持って料理をする動き。腰のあたりの高さで腕を動かす作業は、じつは肩に腕の重さがかかりやすい。料理をするときに肩に痛みが走る人は、腱板断裂を疑った方が良いでしょう。

 腱板断裂は50歳以上に多いものの、40代で起きても不思議ではない病態。中高年の女性に多いのが特徴です。

※本記事の全文(約3500字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と、「文藝春秋」2025年5月号に掲載されています(菅谷啓之「【肩】ポイントは胸郭。「胸張り」で柔らかく」)。全文では、肩のアンチエイジングに効果的な体操を図解入りで解説してます。

2025.04.29(火)
文=菅谷啓之