
今年で創業25周年を迎えた、神田の老舗中国料理屋「神田味坊」。オーナーである梁宝璋(リョウ ホウショウ)さんが手探りで築き上げていったお店と料理の数々は、グルマンたちを唸らせてきました。
後篇では、中国東北料理の名物である羊料理を中心に、味坊の箸とお酒が止まらなくなる絶品グルメをご紹介。加えて、羊肉料理や自家製栽培の野菜など、梁さんが語る食材や調理に関してのコメントも併せて紹介しているので、味の秘密を知りたい人も満足できるはずですよ。
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料理に使う野菜は自社農園で育てる! 料理にかけるアツすぎるこだわり

止まるところを知らない味坊の躍進を支えているのは、梁さんの食へのアツいこだわりです。お店の名物である羊料理にも並々ならぬ情熱がありました。
「日本は高温多湿ゆえに羊があまり育たず、そのほとんどは羊毛を取るために飼育されてきたという話があります。それゆえ、肉質の研究が牛、豚、鶏ほどではなく、日本人の中の『羊肉の独特な臭いが苦手』という認識を生んでしまったのかもしれません。でも、羊肉の全部が強い臭いというわけではありませんよ。
うちのお店に来てくれたお客さんの多くが『今まで羊肉食べられなかったけど、ここのお肉は不思議と食べられた』と言ってくれるのですが、その秘密は料理によって、オーストラリア、ニュージーランド、アイスランド、スペイン、フランス、チリなどと、産地の違う羊肉を使い分けているところですね」(梁宝璋さん、以下同)

梁さんのこだわりは何も羊だけではありません。
「野菜もこだわっていますよ。実は茨城県のつくばみらい市と埼玉県八潮市に合わせて6000坪ほどの畑を持っていまして、そこで自家製のパクチーや大根、あとは白菜なんかも栽培しています。去年の収穫分は20トンくらいでした。そこで採れた白菜は、同じく茨城にある古民家を改造した工場で、大きな瓶(かめ)に入れてじっくりと発酵させています」
ワイルドな魅力と繊細な気配りが融合した傑作料理たち
ここからは同店自慢の料理を見ていきましょう。
●「ラム肉の串焼き(5本)」(1,100円)

まず紹介するのは、味坊を代表するメニューとしてあげる人も多いこちらの一品。一口噛むと甘辛いタレとオーストラリア産仔羊肉の旨味が口の中に広がりました。香り豊かなクミンシードと一味唐辛子の辛さも、肉のおいしさを引き出しています。
梁さん曰く、「羊肉は赤身が多いので、火加減が難しく硬くなりがちですが、タレに卵を混ぜることで柔らかさとジューシーさを保っています」とのこと。味坊名物の赤ワインとのマリアージュもお見事で、リピーターが続出するのも納得のおいしさです。
●「豚バラ肉と白菜の漬け煮」(880円)

豚バラをじっくり煮出したコクのあるまろやかなスープの中には、茨城の古民家の工場でじっくりと発酵熟成させた、乳酸菌たっぷりの白菜がこれでもかと入っており、程よい酸味が味を重層的にさせていました。口触りは優しいのに、白菜の酸味と旨味がしっかりとパンチ力も生んでいる、実にクセになる味わいです。
「このメニューは本当に多くのお客様が注文しますね。中華料理は油をよく使うから、重たいと思う人も多いかもしれませんが、これは野菜たっぷりで健康にもいいのです。いろんな料理と一緒に注文しておけば、食事の最中にホッと一息つけると思いますよ」
●「板春雨の冷菜」(900円)

東北地方で昔から「大拉皮(ダーラーピー)」と呼ばれ親しまれてきたこの料理は、なんと極太の板状春雨をいただくことができます。日本で春雨というと細切りで、サラダや鍋の脇役というイメージが強いですが、このメニューはまさに春雨が主役。プルプルモッチモチの茹で春雨はラー油とお酢で味付けされており、トッピングに茹でて細切りにした羊肉とパクチーが乗っています。
「乾燥した春雨ではなく、お店で特別なデンプン粉に水を混ぜて作った生の春雨を茹でているので、噛んでいるとほんのり甘みがしてとてもおいしいですよ」
2025.04.29(火)
文=むくろ幽介
写真=志水 隆