3月31日、NHKの連続テレビ小説「あんぱん」がスタートする。国民的な人気を誇る「アンパンマン」を世に送り出した漫画家やなせたかしとその妻である小松暢をモデルにした同作の脚本を担当したのは、人気脚本家の中園ミホさん。「やまとなでしこ」「ハケンの品格」「ドクターX」など、現代を生きる女性たちを生き生きと描いてきた中園さんにとっては「花子とアン」以来、2作目の“朝ドラ”となる。

 一方、モデルのやなせたかしを師と仰ぐのが、彼がかつて編集長をつとめていた『詩とメルヘン』の編集者だったノンフィクション作家の梯久美子さん。『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』『狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ』など、圧倒的な取材と繊細な描写で人間を描くノンフィクションの第一人者は、最新作『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』でやなせの生涯について綿密に綴っている。「好きな朝ドラは1日3回観る」と語る梯さんは、「あんぱん」の放送開始を本当に楽しみにしているようで……。

スタッフがみんな、ボロボロになるまで読んでいる

中園 脚本を書く前段階でNHKのスタッフとかなりの取材、リサーチをしたんです。でも今回『やなせたかしの生涯』を読ませてもらったら、知らないことがたくさんあって。もう付箋だらけになっています(笑)。脚本はすでに半分以上書いたんですけど、このあとの展開のなかでいくつか使いたいエピソードがあるんですけど……。

 遠慮なく使ってください。この本に書いたことはすべて事実ですし、根拠となる資料をお伝えすることも可能です。

中園 本当ですか。この本を読んだことで改めてやなせさんの人生に厚みが出たというか、ドラマが見えてきたように思いました。梯さんの他の作品もそうですけど、かなり長い時間をかけて取材をして、その何分の一かを作品として発表しているという迫力を感じました。

 やなせ先生に関しては、2015年に『勇気の花がひらくとき やなせたかしとアンパンマンの物語』という子ども向けのノンフィクションを書いていて、そのときにずいぶん取材したので、今回はそれをベースにできた部分が大きいです。

中園 ドラマのスタッフがみんな、ボロボロになるまでその本を読んでいます。

2025.04.03(木)
文=川上康介 
写真=釜谷洋史