この記事の連載
藤原道山さんインタビュー #1
藤原道山さんインタビュー #2
複雑な音色を出すための「3つの技」
――なぜ尺八は音を出すのがそんなに難しいのですか?
藤原 リコーダーは尺八に似ていますが、息を入れれば誰でも音が鳴らせます。これは、リコーダーには、口に咥えるところの下にスリットのような穴が空いていて、“息の通り道”がつくられているからです。この息の道があることで、息を入れるとある程度音が鳴るつくりになっているのです。
これに対し、尺八はただの“竹筒”です。リコーダーとは違い、“息の通り道”がないので、自分で息の道をつくらないと音が出ません。尺八が「音を出すまでが難しい」といわれるのは、この息の道を見つけるまでに少し時間がかかるからです。
――木管楽器はいろいろありますが、尺八だけ音の出し方が異なるのですか?
藤原 音の出し方でいうと、尺八はフルートに近いです。どちらも、息を入れることで空気を振動させて音を鳴らします。
これに対し、クラリネットやオーボエ、ファゴット、サックスには、息が出合う最初の地点に、「リード」という葦(あるいは樹脂)でできた薄い板が装着されている、という違いがあります。息を入れることでこのリードが振動し、その振動が管を通って音を鳴らす仕組みです。

――尺八は穴数がそれほど多くありません。息を入れるだけで、なぜあんなに複雑な音色が出せるのですか?
藤原 尺八には、大きく分けて3つの技があるからです。この3つの技で、多種多様な音色を生み出しています。
まず1つ目は「息」の技です。そもそも息を入れなければ音は出ませんが、この息の強弱によって、荒々しい音から繊細な音までいろいろな音を生み出すことができます。
2つ目は「指」の技です。
尺八には、前に4つ、後ろに1つの指穴が空いています。
この指穴を普通に開閉するだけだと5つの音しか出せませんが、穴を半分空けたり、4分の1空けたりすることで、1本の指でいくつもの音を操ることができます。指先の微細な動きで、音を調節できるのです。
そして尺八のもっとも特徴的といえるのが、3つ目の「首」の技です。
首は横に振ると音が震え、私たちが「ユリ」と呼んでいるビブラートを生み出すことができます。また、縦に振ると音程が変わります。
指で指穴をふさいで音の変化を生み出すように、首を下げると音が下がり、首を上げると音が上がるなど、首の動きで細かな音の調整ができます。
尺八は、この「息・指・首」の3つのコンビネーションでいろいろな音を創り出しているので、同じ曲でも演奏する人によってまったく違って聞こえることがあります。
2025.03.12(水)
文=相澤洋美
写真=志水 隆