『DTOPIA』で第172回芥川賞を受賞した安堂ホセさん。3作目の小説となる本作では、前2作と意識的に変えた点があるという。

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完成度を追求しない

 ──安堂さんのプロフィールについても訊ければと思ったのですが、詳細なプロフィールは公開していないと聞きました。

 安堂 そうです。受賞後に「ハーフ? 出身は?」みたいなサイトが勃興しましたが、すべて嘘です(笑)。

 ──わかりました。では、受賞作について話を聞かせてください。

「ジャクソンひとり」と「迷彩色の男」は、ともにブラックミックスのゲイの男性が主人公ですが、受賞記者会見で、テーマを一つに絞って完成度を上げていくのは、もういいんじゃないかと思った、と語っていたのが印象に残りました。そう思われたのは、なぜですか?

 安堂 それは前2作への反省でそう思ったわけではなく、単純にそういうものはたくさんあるし、得意な方もいるから、というのが大きいです。ただ、マイノリティの人物を登場させると、作者を起点とした私小説としての側面を読んでもらうことは多いですね。だから今度は、人単位ではなく状況そのものをインターセクショナルにした、賑やかな小説が書きたくなりました。

 ──そうして書かれたのが、「DTOPIA」だった。

 安堂 そうです。文芸誌だといわゆるテーマ短編みたいな特集がありますが、例えば「ケーキ」がテーマなら、めっちゃケーキを食べる人の小説ばっかりに、どうしてもなるんですよ(笑)。かといって「一番意外なかたちでケーキを出してやろう」みたいなのも、自分には無理がある。さっきの、僕がデフォルトにしたい人物や属性も、どこかでテーマ短編的な特徴に成型されていってしまう。そこから逃げたいという思いもありました。

「作品としての完成度」という言葉もなんか怪しいというか、ほぼ「同調圧力」みたいなものに近い。磨いて磨いて工芸品を作るように、丁寧なファインアートを作るように短編や中編を書く文化が脈々とあるのは素敵だけど、マイノリティの人がそれをやると、いくらやってもステートメントに見えてしまう。だから今は違うことをしたいなと思いました。

 だから、「DTOPIA」は最初、ミックスであるモモを主人公とする東京のパートから書き始めようとしたんですが、1行目を書いたところで、これは強すぎて回収されてしまうというのがわかって、テーマを殺すようなものとして、恋愛リアリティショーのパートから書き始めることにしました。

2025.03.06(木)
文=安堂ホセ