自分らしく生きれば、ステージにふさわしい出会いが訪れる

――ご自身の結婚観にも変化がありましたか?

大木 ありました。今後、もしも結婚するとしたら事実婚が良いし、夫婦別姓が良いです。それだけじゃなくて、男性との関わり方にも違いが出てきました。

 これまで10代から芸能活動をする中で、「男性から多少、上から目線で嫌なことを言われても仕事のために笑顔でかわさなきゃ」と思ってしまうこともありました。実際は心が死んでいたのに。会社員になってからも、ハイスペ男子と食事に行くノルマ飯を自分に課して「30歳までに仕事で成果を出して結婚して、周囲から認められたい」、「誰かに幸せにしてもらいたい」という呪縛に囚われていました。

 でも、作家として少しずつ経験を積んでいくと、自分らしく生きれば生きるほど、恋愛に限らず自分が信頼できたり安心できたりする人がやってきて、より満たされるのだということに気付きました。

――どんな出会いがあったのですか?

大木『アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア』を出版した時、林修先生がたまたまがWEB上で私が書いた文章を読んで下さり、それをきっかけに林先生が司会を務める『林先生の初耳学』(TBS)に出演させていただきました。

 収録時には「これは、あなた自身が掴み取ったチャンスなんだよ」と優しく語りかけてくださって、心底感激しました。

 次に書いた『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』は映画化して、「赤の他人のおっさん・ササポン役」を井浦新さんが演じてくださいました。舞台あいさつで井浦さんは、「僕の推しは、原作者の大木亜希子さんです。人とのコミットしてくる具合だったり話し方だったり、礼節だったりが、ちゃんとしてる」と仰ってくれたんです。その縁をきっかけに『マイ・ディア・キッチン』に応援コメントを寄せていただきました。

 そういう経験を通じて、これまで辛かった出来事が少しずつ成仏していく気持ちになりましたし、たとえ恋人のような近しい間柄ではなくても心から敬愛できる男性は現れるんだと感じたんです。

――恋愛だけが全てではないと思えたんですね。

大木 そうです。20代の頃は「人に甘えたら嫌われてしまう」とか「良い男性と付き合うためには、時には無理をしても愛想良く接しなければ」という強迫観念がありましたが、人として尊敬出来る男性達に出会えたことで、私自身も仕事に矜持を持ち、作家として納得する作品を書き続けていれば素晴らしい出会いが生まれるのだということがわかりました。

――その変化は作品にも影響を与えていますか?

大木 そうですね。『シナプス』執筆中は、どこかで「この理不尽な世間に対して戦いを挑む」ような気持ちでいたんです。だから、表情も険しかったと思います。でも、色々な経験を重ねていくうちに、ゆったりとした気持ちで、波間で隣の人同士で手をつないでいるような感覚で生きたほうが楽に生きられることに気付きました。『マイ・ディア・キッチン』では、そういうゆったりとした感覚を大切にしています。

大木亜希子(おおきあきこ)

作家。14歳で女優デビュー。その後、2005年にドラマ『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)に出演し、数々のドラマ・映画に出演。2010年に秋元康氏がプロデュースするSDN48でアイドル活動を始める。芸能界引退後は、2015年から大手ニュースサイトに記者として入社。2018年フリーランスライターとして独立。著書に『アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア』(宝島社)、『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(祥伝社/2023年に映画化)、『シナプス』(講談社)。

マイ・ディア・キッチン

定価 1,980円(税込)
文藝春秋
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2025.03.04(火)
文=ゆきどっぐ
写真=橋本 篤