自分の人生の、何が気に入っていなかったのか

新川 自分と重なりつつも自分ができないことをやってるからでしょうか。

宮島 私もデビュー前にライターをやっていたことがあります。1文字1円とかの仕事でも、頑張って書くと月20万円ぐらい稼げるんですよ。これで生計を立てている人は絶対いるなと思って。こういう40代男がいたら面白いというところから着想を得たんですけどね。

――本屋大賞の二次会で、宮島さんが「以前は自分の人生が気に入っていなかった」とおっしゃったのが印象に残っています。

宮島 そうそう、「小説を書いて一気にその道が開けたような気分になった」とも言いましたね。きっと『婚活マエストロ』のケンちゃんも似た感じだったんじゃないかと書きながら気付きました。

新川 それ以前はしっくりこない感じですよね。私も完全にそうです。今の話はすごくわかる。

宮島 何が気に入らなかったのかな。小説家になる夢は子どもの頃からあったんですが、なかなか芽が出ないなと思っていて……。そう、小説家になって、「やっぱり私、面白かったんじゃん。才能あったじゃん」と思ったんです。それが活かせていないと感じていたから、気に入らなかったんだろうと今ならわかる。

新川 そうだったんですね。私は結構オラオラ系クリエイターなので、落選した作品でも「いや面白いだろう」と思っていました。投稿時代も、書けば書くだけうまくなっている実感があったので、そのうち世間も私を見つけるだろう、みたいな(笑)。

『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した時に、夫は腕組みして、「ふーん、宝島社って偉いね。ちゃんと見つけるんだね」って言ってました(笑)。

宮島 面白いから結婚したと言う夫さんは、ちゃんと面白さに気づいていたんですね。

新川 人様はわからないけれど、我々に関して言えば、破れ鍋に綴じ蓋みたいな感じ。夫もたぶん私みたいなのじゃないとだめなんだろうし、私も夫じゃないとだめなんだろうと思います。

みやじまみな/1983年静岡県富士市生まれ。滋賀県大津市在住。京都大学文学部卒。2021年「ありがとう西武大津店」で第20回「女による女のためのR-18文学賞」大賞などを受賞。2023年同作を含む『成瀬は天下を取りにいく』でデビュー。

しんかわほたて/1991年アメリカ合衆国テキサス州ダラス生まれ。宮崎県宮崎市育ち。東京大学法学部卒業後、弁護士として勤務。第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、2021年に『元彼の遺言状』でデビュー。

写真=鈴木七絵/文藝春秋

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2025.01.26(日)
文=内藤麻里子