ちなみに、この作品にも葉蕭刑事が登場します。

 次は『幽霊ホテルからの手紙』の続編「荒村公寓」の映画化作品です。作家の蔡駿さんが執筆のために間もなく取り壊される予定の上海の洋館を借りて住んでいて、一方で蔡駿ファンの大学生のグループが荒村という田舎の村にある幽霊屋敷を訪ねるという、二つのストーリーが並行して語られていきます。先ほども言いましたが、ここにも葉蕭が蔡駿の三つ年上の従兄弟として登場します。

世界をつなげる橋渡しとしての文学

司会 それでは最後に、蔡駿さんから締めのご挨拶をお願いいたします。

蔡駿 まずは本日、たいへん充実した時間をみなさんと共有させていただいたことに、心から感謝申し上げます。登壇してくださった三津田信三先生、三橋暁先生、舩山むつみ先生、またこのイベントを主催してくださったみなさまにお礼申し上げます。

 周知のとおり、今日の世界ではどの国も日々目まぐるしい変化を遂げています。異なる国、異なる民族の間は、ますます友好的な近しい関係になるだけでなく、逆にお互いがどんどん遠く離れていくような関係になっていることもあります。

 旧約聖書に描かれた「バベルの塔」は、みんなでともに手を携えて行動すれば天まで届く塔を建立することができたのに、互いの諍いから神様は人類に異なる言語を与えたため、互いに相容れないもののように隔てられ、塔は完成しなかったと伝えています。しかし、ここにおいでの舩山むつみさんをはじめとする翻訳者と呼ばれる方々はそれに抗い、言語を翻訳することによって人々をふたたび融合し、新たなバベルの塔を作ろうとしています。

 本日、通訳をしてくださった野原敏江先生は中国帰国者二世だとお聞きしました。野原さんご自身は戦争を経験した世代ではありませんが、80年ほど前のあの戦争によって、おそらく彼女を含めそのご家族、大勢の日本人と中国人、そして世界の歴史まで否応なく塗り変えられていきました。決して忘れることができない、人類全体の苦難の歴史でもあると思います。戦争とはどんなものなのか、日本人だから戦争をしたとか、中国人だから戦争をしないとか、そんなことではないはずです。人間だからこそ、人間の中にミステリがあるからこそ、そうしたことが起こり得るのではないでしょうか。人間の心と言動、魂までも記録する文学には、そのような過去、現在、未来、そして全ての世界をつなげる橋渡しの役割があると私は信じています。

 海の向こう側にある中国にも、人類の生き方に対して深く思慮して創作する優秀な作家がたくさんいます。今回のイベントを通して、もっとたくさんの日本の読者に作品を読んでいただけたら嬉しく思います。リアルタイムの中国は本当はどのような国なのか、もっと日本の読者に知っていただくために、今後もますます多くの中国語の作品が日本に翻訳紹介されるように心から望んでおります。

幽霊ホテルからの手紙

定価 2,145円(税込)
文藝春秋
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2024.12.21(土)
文=蔡 駿、三津田信三、舩山むつみ