国立西洋美術館(東京・上野公園)で展覧会「モネ 睡蓮のとき」が開催中です。
印象派を代表する画家のひとりであるクロード・モネ。世界最大級のモネ・コレクションを誇るパリのマルモッタン・モネ美術館と国内の美術館が所蔵する珠玉のコレクションから、〈睡蓮〉を中心とした全64点が展示されています。
この展覧会に、作家の一色さゆりさんが訪れました。
ギャラリー・美術館勤務のある一色さんに、大混雑必至の展覧会を鑑賞するコツや、〈睡蓮〉の思い出についてお聞きしました。(前後篇の後篇。初めから読む)
「世界屈指の〈睡蓮〉の聖地」だと思う美術館は?
―― 一色さんは国内外問わず、様々な美術館でモネの〈睡蓮〉をご覧になられていると思います。モネの〈睡蓮〉に関して何か思い出やエピソードがございましたら、ぜひお聞かせください。
スイスにあるバイエラー財団美術館が所蔵する《睡蓮》の三幅対ですね。もともとモネの《睡蓮》をきっかけにしてデザインされた美術館で、何メートルにもわたる大作の〈睡蓮〉が常設されています。
常設展示室と庭がガラス越しに面していて、すぐそばに睡蓮の池が広がっている。つまり、人がつくりし至高の〈睡蓮〉と、自然が生みだした美しい睡蓮とが、呼応するような構成なんです。
また、たっぷりの自然光のなかで立派な〈睡蓮〉を鑑賞するという貴重な体験ができる場所でもあって、世界屈指の〈睡蓮〉の聖地だと思います。本当に素晴らしい美術館です。
私はご縁があって、二度ほど仕事で訪れるチャンスがありました。一度目は画廊に勤務していたとき、コレクターのお客様をアテンドして。二度目は国立新美術館の学芸課で働いていたとき、展覧会準備のための調査として。
季節は夏と冬、両方を体験しましたが、どちらも言葉にしがたいほどの魅力がありました。美術品をここまで自然と調和させて展示することができるのか、と。まるで自然そのものがアートのようで、入れ子構造になっていたんです。
他にも優れた所蔵品が目白押しですし、バーゼル近郊ののどかな田園風景とあいまって、奇跡のような場所だと思います。
訪れた当時、私は仕事やプライベートでなにかと心配事を抱えていましたが、すべて忘れられるような癒しのひとときでしたね。アートは人を救うんだと教えてもらいました(笑)。
―― この度、モネの〈睡蓮〉をテーマにした新刊『モネの宝箱』が発売になりました。作品に込めた〈睡蓮〉の役割について、お聞かせいただけますか。
今回はあまり美術史的なうんちくは書いていなくて、それよりも、キャラクターたちが自分の心に向きあうための装置として〈睡蓮〉を登場させています。
というのも、〈睡蓮〉って、たとえ歴史背景や制作意図を知っていなくても、純粋に楽しめる部類の作品だと思うんです。だから、知識を得ていただくよりも、みんなにとっての心の鏡というか、自分も含めた誰かに対して素直になるきっかけとしての〈睡蓮〉の在り方を、目の前に浮かぶような丁寧な作品描写を心がけながら書きました。
美術好きの方も、そうでない方も楽しめるような一冊になっていると思います。
2025.01.04(土)
文=一色さゆり