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 国立西洋美術館(東京・上野公園)で展覧会「モネ 睡蓮のとき」が開催中です。

 印象派を代表する画家のひとりであるクロード・モネ。世界最大級のモネ・コレクションを誇るパリのマルモッタン・モネ美術館と国内の美術館が所蔵する珠玉のコレクションから、〈睡蓮〉を中心とした全64点が展示されています。

 この展覧会に、作家の一色さゆりさんが訪れました。ギャラリー・美術館勤務を経て、現在数々の「アート小説」を手がける一色さんに、モネの〈睡蓮〉の魅力についてお聞きしました。(前後篇の前篇。後篇を読む


――展覧会「モネ 睡蓮のとき」を訪れた感想をお聞かせいただけますか?

 どこを向いても、どこを見ても〈睡蓮〉の連作に囲まれて、まるで〈睡蓮〉を描くことに没頭していた、晩年のモネのアトリエに迷いこんだようでした。こんなにたくさんの〈睡蓮〉を一度に見たことはなかったので、圧倒されるとともに、貴重な機会だと実感もしました。

 もちろん、パリに行けば、マルモッタン・モネ美術館(本展で紹介されている全64点のうち、およそ50点を所蔵しています)の他、オランジュリー美術館など〈睡蓮〉を一度にたくさん堪能できる場所はありますが、日本だと滅多にない。

 その分、「〈睡蓮〉だ!」と気合いを入れて鑑賞してしまいがちですが、今回は贅沢にも全方位から〈睡蓮〉に包まれモネの世界に浸ることができるので、気負う必要がありません。

 だからこそ〈睡蓮〉の本質に迫りやすいというか、真髄に触れられる展覧会だと思います。

老年期のモネの「狂い咲き」のような変化が好き

――印象に残っている作品はございましたか?

 たとえば、《睡蓮》(習作)(カタログの作品番号22)などは、思わず写真を撮ってしまいました。

 モネの〈睡蓮〉には、絵具が塗り重ねられているからこそ、重層的な世界が生まれるという特徴があると思っていましたが、この習作は、カンヴァスの地のうえに絵具の線がひかれているだけの、未完成なまま。

 完璧主義だったモネなら廃棄しかねないような状態だからこそ、モネの息遣いが聞こえてくるようで、貴重な一点だと思いました。

 印象に残った章は、2章と4章です。2章「水と花々の装飾」では、アイリスやキスゲ、藤やアガパンサスなど、モネが暮らしたジヴェルニーの「水の庭」に実際に生息していた植物の絵が集められていて、モネの庭や植物への愛を感じました。

 また4章「交響する色彩」では、もはやタッチが荒くほどけすぎて、なにが描かれているのか分からない晩年の絵が並んでいます。晩年のモネが、人生の悲喜こもごもを経験し、視力や体力の低下に悩まされるなかで、それでも絵筆を握って描きつづけた、芸術家としての執念のようなものを感じました。

 マティスやデ・クーニングも同じですが、老年期にどんどん自由になって狂い咲きのような変化を果たしたものが、個人的に好きなんですよね。

2025.01.04(土)
文=一色さゆり