『刀剣乱舞』ではお姫様のお役も挑戦

――これまでに出演された古典歌舞伎や新作歌舞伎で経験し、培ってきたものが自分にとって新しい引き出しになったと思えたような出来事はありましたか?
新作の歌舞伎では、どこまでが歌舞伎で、どこからが新しいチャレンジなのかという線引きが、何度経験しても難しいです。例えば新作歌舞伎『刀剣乱舞』の場合は、登場するキャラクターにそれぞれファンがいて、ファンの皆さんは自分が推しているキャラクターに対して“こういう人物だ”というしっかりとしたイメージを持っていらっしゃいます。
ですから、“歌舞伎で演る場合はこの人物をこういう風に表現しますよ“というものをどの程度受け容れていただけるのか、その加減がとても難しかったです。キャラクターの素振りや決め台詞だけにフォーカスして演じると、上辺のお芝居になってしまいます。キャラクターの根っこの部分をしっかり捉えて、こういうときはこういう反応をするだろうな、と想像力を働かせて台本に書いてないところも作っていかなければなりません。
僕は『刀剣乱舞』でお姫様のお役も演じたのですが、歌舞伎に登場するお姫様をそのまま演じると、『刀剣乱舞』の世界観には馴染みません。刀剣男士たちがタイムワープして、古典歌舞伎で描かれるような時代にいるという状態なので、古風な中にモダンさもあるからです。
どのようなお姫様像であればマッチするのかを調整するのはすごく難しかったのですが、とてもやり甲斐がありました。新作歌舞伎に出演するということは、古典の作品をいかに勉強しているかということが試される場だと僕は思っています。
――『応天の門』はいわゆる時代劇ですが、ご自分がこれまでになさったお役でイメージが浮かんだものはありますか?
『応天の門』を歌舞伎のジャンルでいうとしたら、「書き物」と呼ばれる近代に描かれた「新歌舞伎」寄りのものですね。歌舞伎にもおっちょこちょいなキャラクターはいるので、それが手本になるのかもしれませんが、僕自身は今回は歌舞伎的な演技にはこだわらずに、共演者の皆さんに溶け込めるような挑戦をしたいと思います。とはいえ、自分の中には歌舞伎で培った引き出ししかありませんので、その引き出しから求めていただいたものだけをうまく出せたらいいのかなと思います。
衣裳も普段の歌舞伎とは違うものの、歌舞伎にもあるような構造の衣裳でした。実際に衣裳を着たときの所作などは自分の強みとして生かしてみたいです。

――今回の共演される方々にはどんなことを期待されていますか?
花總まりさんは宝塚歌劇団に在籍されていた頃から拝見していて、退団されてからの舞台も何作か観させていただいております。そのような方とご一緒できるなんて、思ってもみないことでした。とてもうれしいです。
また、佐藤流司さんは舞台『NARUTO』のうちはサスケやミュージカル『刀剣乱舞』では加州清光役をなさっていますが、どちらも歌舞伎化されていて、僕もお役は違えど同じ作品に出演しています。以前、共通の知り合いの方のご紹介で舞台を拝見して、ご挨拶したことがあります。ご縁のある方との共演なので、楽しみにしています。
2024.12.07(土)
文=山下シオン
写真=佐藤 亘