おそらく、私たちアナウンサーの知らないところで、著者の池井戸さんが日本テレビの制作(スポーツ局)側と連絡を取り合いながら、長い期間、取材を続けてようやく完成した作品なんだろうと思っていたんですが、実在のモデルに寄せて書かれたわけではなく、創作の部分が大きいと聞いて、改めて言葉にならないほどびっくりしています。
復路の翌日から総力戦で一年間を取材
――本書の上巻でも箱根駅伝の中継に向けて、アナウンサーの方が事前にいろいろな取材をする場面が出てきますが、実際、日本テレビの方は本番に向けてどのような準備をされているのでしょうか。
町田 毎年、アナウンス部の3分の1にあたる20人以上のアナウンサーが箱根駅伝に携わっていて、まさに総力戦といった感じです。毎年復路が終わった翌日、1月4日の早朝練習から大学は新体制でスタートしますが、この日から担当アナウンサーが取材に行くこともあります。そこから春のトラックシーズン、夏合宿、予選会、駅伝シーズン、本大会という感じで、チームと選手が一年間どんなシーズンを送ってきたのか、取材の空白期間がないようにしないと、やはり言葉にするのが不安になっちゃうんですよね。
箱根駅伝は、優勝したチーム、走り勝った選手はもちろんですけれど、抜かれてしまった選手、夢破れたチーム、故障でメンバーに入れなかった部員もクローズアップされる場合があり、全員が主役とも言えます。本番のレースでは何が起こるか分かりませんし、どの大学の選手がどの区間で先頭に立っても、さらにその選手が独走してタスキを繋いだとしても、1時間は実況できるように取材しておく必要があるんです。エントリーメンバー16人が決まるのは12月10日で、その前からエントリーの可能性がある20名前後×20チームを取材するとなると、取材対象選手だけでも約400名になります。
それを分担して取材するわけですが、アナウンサー1人が1校に責任をもつ担当制です。たとえば私が母校の早稲田の担当だとしたら、取材のアポイントをとってスケジュールを組み、日程が決まったら一緒に取材に行きたいメンバー(アナウンサー)を募ります。優勝を狙うような強豪大学に希望者が多いかといえば、必ずしもそういうわけでもなく、例えば中継所の実況アナならば、トップ通過や区間新に絡みそうな大学へ取材に行くなど、自分の持ち場ならば、どの大学に取材に行っておいたほうがいいか、それを考えて各自が取材希望を出すことが多いです。
2024.11.22(金)
文=町田浩徳