しかしゲラを読んだあの日の衝動を考えると何もしないわけにはいかない。絶対に読者の皆様も言いたいことがあるに違いない!と思った我々は考えました。読了した皆様が思う存分感想を語り、その感想をぶつけられた阿部さんの反応が見られる場。ネタばれOKで多少は互いにやり取りのあるイベントができないものか。

 文藝春秋の担当の方にも相談して検討した結果、実現したのがオンライントークイベント「ネタばれ上等!『楽園の烏』の舞台裏を語りつくす」でした。

 阿部さんのトーク力と文藝春秋様の設備あってのイベントでしたが、読者の皆様の悲鳴を阿部さんにとどけ、作品だけではない阿部智里という作家の魅力を多少なりとも読者の皆様にお伝え出来たのではないかと思います。

 阿部さんとお話をさせていただいていつもすごいと思うのは、山内という世界が阿部さんの頭の中に細部までリアルに存在しているということです。本編には関係の無いようなふとした疑問にも「あぁそれは…」と迷うことなく(ネタばれにならない範囲で)回答があるのです。それだけしっかりとした世界があるので、その一部が文章化された八咫烏シリーズはこんなにも読者に届くお話になるのですね。

 ということで第二部が始まり『楽園の烏』で衝撃を受け、『追憶の烏』であまりの展開にショックを受け、この先が少しだけ不安になっていた私ですが、本作『烏の緑羽』読了後一発目の感想は「早く続きが読みたい!」でした。

『烏の緑羽』は第二部が始まってから動きの見えていなかった長束とその周りの男たちについて、そしてかつて雪哉と敵対した「翠寛」と長束の護衛「路近」の因縁の関係を描いています。

 いやぁ長束さまと周りの男たち。キャラが濃い! 翠寛院士(せんせい)が想像以上に苦労人だったり、清賢院士がけっこうぶっ飛んでる人だったり。両名そこそこ変態だと思ったのは私だけでしょうか。

 そして長束さまの扱い! 頭の中のテーマソングはもちろん「はじめてのおつかい」です。我々読者が長束さまに「さま」を付けたくなる理由がなんとなく分かった気がします。

2024.10.16(水)
文=山口 奈美子 (書店員 三省堂書店有楽町店 売り場担当)