#310 Obama
小浜(福井県)
日本海の寒流と暖流が出会う豊かな漁場が広がり、かつては北前船が立ち寄る港でもあった若狭湾に面する小浜。この滋養豊かな海に育まれた魚介類、そして北前船によってもたらされた物資は、小浜を起点に京都や奈良などの都へ運ばれました。
その小浜と京都を結ぶ街道は、通称“鯖街道”と呼ばれていました。鯖街道にはいくつかルートがあり、なかでも最も古く、最も険しいのが針畑(はりはた)越え。
鯖売りたちは翌朝に京都へたどりつくために、鯖や甘鯛を背中にしょって急峻な山道を一昼夜歩き通したそう。「京は遠ても十八里(約70キロ)」、大して遠くはないさ、と自分を鼓舞(叱咤?)しながら、夜の峠道を越えていったことでしょう。
京都へ運ぶ鯖や甘鯛は、小浜で朝に水揚げされたのち、“一塩”をして送り出されました。これにより魚の鮮度を保つと同時に、峠越えをする間にタンパク質がうまみ成分のアミノ酸に変化して、京都に到着する頃にはいい塩梅になったそう。
京都では、小浜から運ばれた塩漬けの鯖を塩抜きして作った鯖寿司を“一塩もん”と呼び、たいそう珍重したそうです。
2024.10.05(土)
文・撮影=古関千恵子