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夢を叶えられない私って、なんもない?

――その状況に対して焦りはありましたか?

 働くことが何より嫌いなんです。アルバイトにやりがいを見つけて働くことは難しく、生きるために仕方なくするものだと割り切っていました。割り切れない感情の時はすごくつらかったです。ただ生活するためのお金だけでも稼ぐのってすごく大変で、どうしても「働くばっかりでおもんない」って思ってしまっていました。アルバイトの低賃金や搾取の体制が余計にやりがいの無さにつながっていたと思います。

 就職しようと考えていた時期もありました。夢をあきらめてというより、将来が怖すぎて。アルバイトよりは就職した方が良いのかなって。それこそ本作の冒頭でカイちゃんが「私なんもないから」と思うのですが、その頃は同じ気持ちでした。漫画描けている時は気持ちも安定していますが、バイトばかりしてる時はなおさら。本当に何のために東京にいるんだろうと思ってしまう。

――何もないと感じてしまうのは、他者と比べてしまうからですよね。

 はい。人と比べない生き方ができたらいいと頭では分かっていても難しくて。それこそ私も30歳を前にした頃が一番、謎の焦りがあったかもしれない。いくらもうそういう時代じゃないと言われても、やはり周りに結婚して子供ができる人が増えるし、何かをしている人は成功したり結果がでたりする年代でもある。その頃はちょうど漫画を描けていなかったこともあり、いろいろなことに焦っていました。それに今でも、人と比べて自己嫌悪になるのはほぼ毎日のようにあります。人と比べた上で、楽に考えられる方法を見つけていきたいです。

――東京に感じる素敵な面と、反面にある生きづらさ、息苦しさの面について教えてください。

 恋てんを連載する前になりますが『きみはぼくの東京だったな』という漫画で東京が好きだという気持ちを描きました。そこで示したのは、寂しさを心地よく感じられるという側面。東京は人がたくさんいて、街が大きくて、自分がただそこに存在しているだけの、ものすごく小さな存在に感じられる。本来は寂しいことだけど、なんかそれが寂しくないっていう感覚が、東京の好きな面ですね。息苦しさの面は、地方出身者からすると東京にいる意味を求めてしまうところです。

2024.09.28(土)
文=綿貫大介