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刀剣乱舞ファンにも、歌舞伎ファンにも楽しんでもらえる作品を目指して

――先ほどカーテンコールというお話が出ましたが、歌舞伎には通常ないものです。写真タイムがあったり、Blu-ray・DVDにも収録されていますが、オリジナルのアナウンスを入れたり、新たな取り組みもされていましたね。

松岡:松也さんを始め若い俳優さんを中心とした座組でしたので、皆さんはSNSの力も存分にご存知でした。かつて、歌舞伎の評判はクチコミで広がっていったものです。今回我々が目指したのはいわば「デジタルクチコミ」。松也さんもどんどんアイディアを出してくださいました。終演後のアナウンスもせっかくだから、刀剣男士でやろうと。新作だからこそ挑戦できたことはあると思います。図録もそのひとつですね。

お客様のおかげで作ることができた図録

――歌舞伎でこうしたものを出すのは本当に珍しいですよね。

松岡:衣裳さん、床山(かつら)さん、小道具さん、舞台美術家、そして俳優の皆さん、ありとあらゆるこだわりが詰まった、刀剣乱舞らしさと歌舞伎の美しさが詰まったものをお届けしたいと思いました。この作品を作り上げるには、数多くの苦労がありました。

 刀剣はもう歌舞伎の世界ではお手の物ですが、刀剣男士たちの扮装をどうアレンジするかと。髭切・膝丸は短髪で洋装です。演出を担った松也さんを中心に、床山さん、衣裳さんがそれぞれアイデアを持ち寄って「洋装のキャラクターをどう歌舞伎に落とし込む?」と相談を重ねたわけです(笑)。

――三日月宗近は裃姿でも登場します。

松岡:刀剣乱舞のキャラクターといえば、誰もがイメージする姿があります。裃姿はゲームに出てきたことがないのですが、やはり歌舞伎の場合、主人公がずっと同じ衣裳というのはあまりないものです。歌舞伎の魅力の一つが、きらびやかな衣裳でもあると思いますし。歌舞伎らしさ、三日月宗近らしさも取り入れて、松也さんがギリギリまで悩みながら作った衣裳でした。

――廻り舞台全体を効果的に使った美術も印象的でしたが、松也さんはどのように構想されていたのでしょうか。

松岡:松也さんは当初から、これまでの歌舞伎でありそうでなかった歌舞伎を作りたいと仰っていて、それが舞台美術の面でも反映されました。特に二幕目の広庭の場面は松也さんのこだわりが詰まった舞台美術です。演出家としての松也さんは、確固たる信念を持ちながら、共演者の皆さんやスタッフの皆さんの意見も尊重し、この作品を作り上げられました。共同演出の菊之丞さんとのバディ感も大変頼もしいものでした。

 今年の春に南座で行われた衣裳展もご好評いただいて、報われた気持ちでしたね。衣裳展の図録に、名ゼリフを入れようという話があったんですけれども、もうそれなら脚本を全て載せたらどうでしょうかと提案させていただきました。

2024.08.28(水)
文=宇野なおみ
写真=山元茂樹