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いまなお事故物件に住み続ける理由

――いまなお事故物件に住み続けるのも、よりインパクトの強い体験を期待してのことでしょうか。

 インパクト……そうですね。期待される感じのインパクトとは違うかもしれませんが。どれだけ陰惨な事件や、悲惨なことが起こったかというより、なぜかそこに住むと精神に異常をきたすとか、必ず死ぬとか言われている物件には、住んでみたいですね。

 本当に自分もおかしくなるのか、確かめたいんです。でも、意外とそういう物件には住めていないんですよ。住みたいと思って問い合わせても、募集をやめていたり、別の人が入ってしまったりで、タイミングが合わない。

――何かに守られているのでしょうか。神仏とか、守護霊とか。

 それを信じてしまうと、検証の意味がなくなります。そんな見えない力に頼るより、自分でちゃんと検証して、恐怖を乗り越えたいんですよ。事故物件でも、防犯・防災意識をちゃんと持って、普通に楽しく暮らしていれば、恐怖に飲み込まれたり、死に引っ張られることはないと思っています。一方で、想定外の出来事を期待してもいるわけですが。

――わからないことは自分で確かめてみたいという気質は、もともとですか。

 そうですね。事故物件も最初は恐いな、嫌だな、って思っていましたが、当時は仕事もなかったし、誰もやってないから面白そうだなって。霊のせいとか、事故のせいとか、そういう思い込みみたいなものを取り外していくと、怪談がぶち壊しになってしまいますが、ぶち壊したうえでちゃんと恐いものを探しています。

2024.08.10(土)
文=伊藤由起
写真=志水 隆