「極度の緊張状態の日々でした。中でも強く記憶にのこっているのは認知症で暴れてしまう義母を、嫁が宥めるというシーンがあったのですが、何度リハーサルをやっても、うまくいかなくて」
樹木さんに教わったこと
――何がいけなかったんでしょう。
「この作品は作家・井上靖氏の自伝的小説で、実在の人物を演じていました。控室には正月に嫁が義母に羽織をかける実際のスナップ写真があり、樹木さんは最後にそれを指して、『このスナップ写真には2人の関係がすごく出てるじゃない? 私とあなたが触れ合うシーンは今ここしかないのに、あなたは私との関係をどうやって表現しようとしてるの?』と、厳しく問われたことがありました」
――ドキッとするお話です。
「私は恥ずかしながら、何も考えてなかったんですね。樹木さんがそうやってワンシーン、ワンシーンを命懸けで作り上げているのだと気づかされハッとする思いでした。苦い思い出ですが、樹木さんには役を演じるうえで大切なことを教えていただきました」
結婚式での仲代さんの挨拶
――ちなみにご家族は映画初出演を応援してくださったんでしょうか。
「夫は同じ劇団出身なので、『いってらっしゃい』と快く。子育て中にくさくさして、『私の人生、何なのよ!』って、洗濯物を投げて荒れる姿も見ていたから(笑)。実は私たちの結婚式には、仲代さんが立会人として、式に参列してくださいました。ご挨拶で『赤間は嫁ぎますが、僕はいいお嫁さんを育てたつもりはありません。僕は役者を育てたので、どうか皆様、赤間が役者を続けることをご了承ください』と言ってくださったんです」
――素敵ですね。
「『赤間は役者を続けると思いますし、僕は役者を続けてほしいと思っている。二人が互いに殺し合わないように、二人とも役者で立派になるように見守ってください』と。その言葉があったからこそ、二人三脚でやってこられたのかもしれません」
――『わが母の記』の後、赤間さんは武正晴、井筒和幸、李相日、深田晃司、吉田大八ら、名だたる監督の映画に出演されています。ようやく実力が認められ、女優として軌道に乗り始めます。
「そのはずだったのですが、私、『わが母の記』の直後に、乳がんが見つかってしまって、3年ぐらいまた足止めを食らってしまったんです」
〈「お前、いまハゲてるらしいじゃん」乳がん発覚、ホルモン治療…女優・赤間麻里子53歳が感謝した映画監督の救いのひと言〉へ続く
2024.07.21(日)
文=「週刊文春」編集部