ドラマ、映画、舞台と幅広く活躍し、作品ごとに違う顔を見せる俳優、江口のりこさん。彼女が参加した『お母さんが一緒』は、ペヤンヌマキさんによる同名の舞台を原作に、『ぐるりのこと。』『恋人たち』などで知られる橋口亮輔監督が9年ぶりに手掛けた作品。家族の面倒さと愛おしさを描いたこの作品を端緒に、江口さんに自身の家族のことや作品への取り組み方のことなどを聞きました。
参加を決めた理由は橋口亮輔監督だったから
──映画『お母さんが一緒』は、親孝行のつもりで母親を温泉旅行に連れてきた三姉妹を描いた作品ですね。
温泉旅館という密室で3人の会話劇が続くシチュエーション自体が、まずすごく面白いですよね。(内田)慈ちゃんと(古川)琴音ちゃんといっしょに三姉妹の役をやれたことは、とてもよかったなと思います。琴音ちゃん演じる三女・清美の恋人を演じた青山(フォール勝ち)さんも含め、みんなでいっしょに作っていったな、という感覚です。
──江口さんのもとにはたくさんのオファーが届くと思いますが、この作品に参加しようと決めたポイントは?
それはもう、橋口亮輔監督だったからです。実際に橋口監督の現場を経験してみて、監督とお仕事できたことは、いまの自分にとってすごく大きな財産になりました。楽しかったし。
でもそれは決して、手放しの楽しさじゃないんです。厳しさも不安もあった。そんな気持ちでリハーサルをして、本番を迎えて、どっぷりと作品に取り組むことができたのは嬉しかったですね。
──厳しさも不安もある、楽しさ。
とにかく撮影がハードだったんです。日数もなかった中で、旅館に缶詰になって、監督の期待に応えようというので一生懸命になっていた。でも、監督やキャストのみんなと一緒に作るなかで弥生像を探っていくという作業は、楽しい時間でしたね。
──橋口監督の演出はいかがでしたか?
監督は、「こんな感じかな」と一人何役も動いて見せてくれたりして。だから私たちも監督のマネをして役を演じていく面もありました。ただ、言葉で具体的に「こう演じてほしい」とかはあまり言わないんです。
その代わり、リハーサルの中で「この前僕、こういう人に会ってね。こういうことを言っていて、こんな人だったんだよ」と全然関係ない話をするわけですよ。でもそれは役を演じるにあたってすごく大きなヒントになったりする。そういうアプローチをされる監督でした。
姉妹で一緒にいる時間は本当に楽しかった
──映画では、姉妹として何十年といっしょにいるからこそだな、と思える会話のテンポに心地よさを感じました。姉妹を演じるうえでなにか気をつけた点や、話し合ったことはありましたか?
もう、撮影中は絶対的にずっと一緒にいるわけですよ。現場に向かう車の中でも、待ち時間も一緒だし。そうするとね、別に何も話さなくても3人で1つみたいな感じが出るんです。「こんなふうにしよう」と話し合ったことなんて一度もなかったですけど、やっぱり橋口さんという大きな柱がそこにあって、3人ともそれをしっかり見て演じていくと、どうしたって同じ方向を向くことになるわけですよね。
このチーム感を作ってくれたのは監督だなと思いますし、3人一緒にいる時間は本当に楽しかったです。空き時間はどんな話したかなあ。とりとめもない話です。琴音ちゃんは食べ物の話が好きで、慈ちゃんがいちばんしっかりしてたかな。私は割とぼんやりしてましたね(笑)。
2024.07.14(日)
文=釣木文恵
写真=佐藤 亘
スタイリング=清水奈緒美
ヘアメイク=草場妙子