こうした研究は、2013年にスタートした東京大学大学院医学系研究科の「システムズ薬理学教室」を中心に実施されてきました。研究は、東京の東大医学部と大阪の二拠点体制で行われていて、数十名の研究員が所属しています(2025年度からは東京と福岡の二拠点体制になっていく予定)。海外の大学との共同研究も盛んに行われていて、睡眠研究の盛んなヨーロッパ各地の10大学ほどとテーマごとに協働を進めています。私自身は1年ほど前からサバティカル(研究休暇)をきっかけにイギリスのオックスフォード大学に部屋をもらい、日英を往復しながら各研究プロジェクトを統括している現在です。

世界一睡眠不足な日本人

 ところで、みなさんは、日本人の睡眠時間は圧倒的に少ないことをご存じでしょうか?

 睡眠時間の国際比較で日本は先進33ヶ国中最も短く、1日あたり1時間ほど足りないことがわかっています。1日1時間の不足は年間で15日間、半月もの不足にあたりますから、これを“圧倒的な不足”と表現するのは的はずれではないでしょう。

 この睡眠不足は、残念ながら労働生産性の国際比較と相関しているように見受けられます。長時間労働で圧倒的な睡眠不足である日本は、労働生産性においても、OECD加盟38ヶ国中30位になっています(2023年発表)。

 システムズ薬理学教室では、日本人の健康のために「睡眠健診」を推進していく活動も行っています。子どもの睡眠については特別に「子ども睡眠健診プロジェクト」という取り組みとして、2022年から実施しています。現在、小中高生1万人弱の睡眠データを集めることができていますが、日本の子どもは大人と同様に、世界平均に比べて1時間ほど睡眠不足であるらしいことがわかってきています。当然のことながら、発達途上にある子どもの睡眠不足は、社会全体が危機感を持つべき由々しき問題です。

 睡眠を日中の活動のために「絶対に必要な時間」とは考えずに、削ってもいい「ムダな時間」と考え、その時間の節約に励む文化的風潮は、今や日本社会に広く根付いてしまっているのかもしれません。しかし、覚醒の時間の延長だけに着目してがんばり続けることが社会に大きな損失をもたらしている可能性が、事実としてあります。日中長時間がんばるという文化から、しっかり休んで自分自身を日々作り直していくという文化へ。本当に大切な時間は、今まで顧みることのなかった夜の時間にある、と一人ひとりの考えを転換していく必要がやはりあるようです。

2024.07.05(金)