
週末に、心が洗われる別世界へ出かけてみるのはいかが。少し車を走らせれば、そこにはおもてなしの心に満ちた極上の宿が待っている。
旅行作家の野添ちかこさんが、1泊2日の週末ラグジュアリー旅を体験。今回は佐賀県・武雄温泉の「御船山楽園ホテル」へ。ホテル自慢のサウナでリフレッシュしたあとは、車で約20分のやきものの里・黒髪山陶芸村に出かけてみよう。
日々の暮らしに取り入れたい、シンプルで味わいのある器を探しに
◆桃林窯


武雄の焼き物は、唐津焼のような粗めの土を使った素朴で力強い「陶器」と、有田焼のような白い陶石を原料にしたなめらかな肌触りの「磁器」の両方があって、窯ごとに作品の雰囲気はまったく異なる。
その歴史は400年以上前に遡る。文禄・慶長の役で、武雄領主・後藤家信が朝鮮陶工を連れ帰ったのが始まりで、現在は5エリアに約90カ所の窯元が点在する。
8軒が工房を構える「黒髪山エリア」はのどかな里山風景が魅力で、休日をゆったりと過ごすのにちょうどいい。
「桃林窯」は小高い丘を上った先に、ギャラリーとカフェ、そして工房をもつ。
有田の磁器メーカーに7年間勤めていた吉田求さんは、30代前半で独立した当初は別の場所で作陶していたが、1994年からこの地で、奥様の嘉代子さんとともにギャラリー&カフェを営んでいる。


お店は洒落た雰囲気で、工房で作られた土のぬくもりが伝わる、使い勝手のよい皿やカップなどが並び、カフェでは桃林窯の器で飲食ができるから、自分ならどんな料理をどのように盛り付けたいか、イメージを膨らませたあとに器選びができる。
ランチの「薬膳カレーセット」(2,000円)は、黄色いターメリックライスに地鶏を使ったスパイスたっぷりのインドカレーが添えられている。1日8食限定だというから、予約してから出かけたい。ほかに「スイーツバスケット」1,200円、「珈琲・和紅茶バスケット」700円などのメニューも用意されている。
ギャラリーから少し上ったところにウッドデッキを設け、2023年に「森のカフェ」をオープンした。天気のいい日には、緑の木々に包まれ、湖を眺めながらゆっくり過ごすのもいいだろう。


桃林窯が得意とするのは、粗めの土に白い化粧土をコーティングし、釉薬をかけて焼く「粉引」や、釉薬はかけず土の質感を出す「焼き締め」など、味のある器作り。
土の産地はさまざまで、「鉄分が欲しければ信楽の土、砂目が欲しかったら唐津の土。天草陶石を使った嬉野の土も使えば、大牟田の海底の土もある。これらをブレンドして化粧土をいじると、種類は無限にできるんです」と求さん。
炭や貝殻を入れると窯変して表情豊かな器になるし、わらをのせて焼くと、わらの成分が蒸着した味わいのある器になる。土を扱う職人は通常ヘラは用いないが、有田焼の工房で修業した求さんは、木のヘラを使い、鹿革で表面を滑らかにする。
ネジキという植物でヘラを作ったり、石を拾いに行ったり、貝を採りに行ったりするのも陶芸家の仕事。
「気が多いので、一度作ったものはあまり作りたくない。作風が変わったねとよく言われます」
工房では日々、新しい作品が生み出されている。
桃林窯
所在地 佐賀県武雄市山内町1832–1
電話番号 0954−45−6186
営業時間 11:00~16:00
定休日 水・木曜
https://touringama.com/
2024.07.12(金)
文・撮影=野添ちかこ