この記事の連載
- 【佐賀県・武雄温泉】〈前篇〉御船山楽園ホテル
- 【佐賀県・武雄温泉】〈後篇〉黒髪山陶芸村
週末に、心が洗われる別世界へ出かけてみるのはいかが。少し車を走らせれば、そこにはおもてなしの心に満ちた極上の宿が待っている。
旅行作家の野添ちかこさんが、1泊2日の週末ラグジュアリー旅を体験。今回訪れたのは、佐賀県・武雄温泉にある「御船山楽園ホテル」。サウナ界のミシュランガイド「サウナシュラン」で3度グランプリに輝いたホテルで、福岡空港から車で約1時間10分で到着する。
お殿様の庭と別邸が、現代版癒やしの楽園に変貌を遂げる
決して新しいホテルではない。高度経済成長時代に建てられているから、むしろハード面では古さも目立つ。だが、数々のイノベーションで進化を続け、滞在とともにワクワクが広がる。
江戸時代に、第28代武雄領主の鍋島茂義公が造り上げた池泉回遊式庭園「御船山楽園」の山の上。まずは入り口で衝撃を受ける。扉が開くと、そこにはあっと驚くピンク色のデジタルアートの世界が広がっていた。不規則に配されたランプが薄紅色や白色に明滅し、とてもホテルのフロントとは思えない。
フロントを彩る色彩は、春には菜の花や桜、初夏はアジサイ、秋には紅葉といった具合に、御船山の植生のように、季節に合わせて変化するそうだ。
幻想的な空間は、デジタルテクノロジーの力を使って生み出されたもので、アート集団・チームラボの作品。「チームラボ かみさまがすまう森 - ジーシー」という展覧会で、ホテル内や15万坪の御船山楽園を舞台に創作活動を行い、今年で10年目になる。
御船山は標高210メートル。300万年前に有明海から隆起してできた雄々しい山で、日本書紀に登場する神功皇后が新羅からの帰りに「御船」をつないだとされることからその名がついた。
3月下旬には2,000本の桜、4月中旬から5月上旬には20万本の久留米つつじや平戸つつじが咲き誇り、樹齢200年の大つつじや樹齢170年の大藤など、古木も見られる花の名所である。
夏の夜には、約3メートルの巨石にデジタルの水を落下させ、滝を描いた「かみさまの御前なる岩に憑依する滝」や、人が歩くと桜ともみじの森が色を変えながら明滅し、音色を響かせる「夏桜と夏もみじの呼応する森」など幻想的なデジタルテクノロジーを使った作品が出現する。
2024年の「チームラボ かみさまがすまう森 - ジーシー」の開催期間は7月12日(金)~11月4日(月)で、大人1,200円(平日)~を払うと入場できる。
ホテル内では入り口のデジタルテクノロジーによる世界とは打って変わって、歴史を感じる和の佇まいとも出合える。
第11代佐賀藩主・鍋島直大公が大正5(1916)年から5年間かけて御船山楽園に建てた別邸を移築した「内庫所」は、鍋島藩御用林から切り出した最高級の木材を使い、贅を尽くした空間である。
なかでも貴賓室「老松の間」は直大公が居間として使っていた居室で、本間だけでも15畳あり、折り上げ格天井、四方柾目の床柱、接ぎ木されていない約9メートルの長押と鴨居、千本格子の欄間など、端正な空間が広がっている。床の間には、明治の三筆と称される、書家・中林梧竹の書が飾られ、露天風呂もついていて、とても素敵である。
「内庫所」には大公の奥方が使った準貴賓室や落ち着いた和室もあり、すべて露天風呂付き。落ち着いた和の空間に浸りたい人はこちらの客室を選びたい。
2024.07.12(金)
文・撮影=野添ちかこ