「ピアノに喩えるなら、俳優は1本の指のような存在」

――本作ではピアノの演奏が物語の中で重要な位置を占めています。湊人と雪乃の連弾のシーンは、ふたりの響き合う様が言葉以上に初々しく伝わってきました。

 ありがとうございます。私も、連弾の手だけが映っているシーンはすごく印象に残っています。手が交差するところでドキドキしたり、次第に楽しくなったりする様子など、ふたりの心臓の高鳴りが聞こえてくるような感じがしました。

――ピアノの練習は相当大変だったのではないでしょうか?

 自分たちでも「頑張ったね!」と言い合えるくらい、頑張りました(笑)。少しでも空き時間があれば、ずっと練習をしていました。

 私は子供の頃に5〜6年ピアノを習っていたことがあるので、指の感覚を思い出せたのですが、京本さんはピアノ自体が初めて、ゼロからのスタートだったそうです。しかもショパンなど、難しい曲を弾かなければいけなかったので、本当に大変だったと思います。

 湊人と雪乃は次第に距離を縮めていきますが、京本さんとは初共演だったので、連弾の練習が、役の関係性を作る上でとても助けになりました。練習を重ねていくうちに、少しずつ心を開いていくことができた感じがします。

――ピアノの演奏とお芝居に似ているところはありますか?

 そうですね……。ピアノは、曲が作られた時代背景や作曲家について学んで、自分なりにそれを読み解いて、現代の感性を使って弾くものだとピアノの先生に伺いました。

 それは、監督の過去作を観たり、脚本を読んだりしながら、その物語は何を表現したくて、自分の役はどういう役割を果たし、その物語を自分はどう感じたのかを役に落とし込む作業に似ているなと思います。

 ただ、ピアノの演奏はひとりで成立しますが、映画はカメラや照明、衣裳、美術、演出などがなければできません。ピアノに喩えるなら、俳優は1本の指のような存在なのかもしれませんね。

――河合勇人監督からはどのようなお話がありましたか?

 監督は雪乃のことをとても深く理解されていて、シーンを撮影する前に雪乃がどれだけ苦しい思いをしたかなど、その都度お考えをシェアしてくださったんです。時折、目を潤ませながら、そういうお話をしてくださって。雪乃を一緒に演じていただいている気持ちになりました。現場には雪乃がふたりいたと思います(笑)。

2024.07.02(火)
文=黒瀬朋子