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 心に深い傷を抱えながら認知症の父と暮らす孤独な女性が、思いがけない事故によって出会う記憶喪失の少年。三人を結びつけた“嘘”が、やがて衝撃的な結末を引き寄せる――。『生きてるだけで、愛。』で高い評価を博した関根光才監督の長編第二作となるヒューマン・ミステリー『かくしごと』が、6月7日に全国公開を迎えます。

 過酷なシチュエーションに身を置く主人公・千紗子という役に、「今の自分だからこそ演じることができるかもしれない」と体当たりでぶつかったのは、『キングダム 運命の炎』『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』など話題作への出演が続いている杏さん。公開を控えた今の気持ちや、母として女性として日々想うことなどをお聞きしました。

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消えるタトゥーシールをこっそり貼って、“かくしごと”しました

――血のつながらない少年に向けられる激しい母性、血のつながった父への憎しみと愛情。千紗子の複雑な心情が生々しく伝わり、いろいろなことを考えさせられる作品でした。脚本を読んだ時にはどのような印象を持ちましたか?

 最初に感じたのは、ラストシーンの面白さです。原作である北國浩二さんの小説『噓』とは少し違う終わり方なのですが、脚本も手掛けられた関根監督はすごく潔く、しかも余韻のあるラストシーンを書いていらして、それが衝撃的だったんです。すばらしい脚本だと感じ、ぜひやりたいなと。

 私自身母親となって数年がたちますし、これまで生きてきた積み重ねがある中で、今の自分だったら演じられるかもしれないと思いました。

――主人公の千紗子は、虐待を受けている少年をかくまい、息子の拓未として育てようと決意します。千紗子自身も辛い過去を背負っていて、かなり難しい役どころだったと思いますが、千紗子というキャラクターとご自身とのリンクを感じたところはありますか?

 自分が年を重ねるにつれ、動物や子どものように立場が弱く、自分で何も選べないまま理不尽な状況に巻き込まれてしまう存在に思いを馳せることが多くなってきています。そんなところにこの千紗子というキャラクターが飛び込んできたんです。

 虐待などを目の当たりにした時、誰でもまず社会的な倫理やルールに照らし合わせてどう行動するべきかを考えると思うんですけど、千紗子はそこをひっくり返して、今目の前にある命を助けるということを最重要視している。もちろんそこには彼女自身のバックグラウンドもあるとは思いますが、他人でありながら一人の子どものためにどんどん不可能を可能にしていく力は、是か非かはともあれすごいと思いましたし、私もやっぱり応援したくなりました。

――役作りのために何か具体的になさったことはあるんですか?

 今回は殺陣があるとか職業的な特性があるとかという役柄ではなかったので、そんなに事前準備はしなかったんですけど、とりあえず誰にも内緒の何かを抱えているっていう気持ちになろうと思って、2週間ぐらいで消えるタトゥーシールを誰にも見えないところにペタッと貼って、誰にも見られないように過ごしてみました(笑)。

2024.06.07(金)
文=張替裕子(Giraffe)
撮影=橋本 篤
スタイリスト=中井綾子(crêpe)
ヘアメイク=犬木愛(AGEE)