夫には自分の気持ちを脚色せずに伝える
──1冊を通して、パートナーとの関係性がとても素敵だなと感じました。言いたいことは言い回しに気を配りながらしっかり伝えたり、でも不向きなことは無理にさせないで諦めたり。結婚生活を送るうえで大切にしていることはありますか?
夫のことは、一番近くにいる他人だと思っているので、友達に同じことを言ったら喧嘩になってしまうであろうことは、夫にも言わないようにしています。気持ちを煽るような言葉を使ってしまうと、売り言葉に買い言葉で絶対にうまくいかない。自分の気持ちを素直に、脚色せずに伝えることを意識しています。『自分を好きになりたい。』という本にも描いたのですが、私の母はけっこうエキセントリックで怒りやすい人だったんですね。それを反面教師にして、なるべく感情的にならないように話すことを心がけています。
──最近も将来について、何か夫婦で話し合いましたか?
コロナ禍も落ち着いてきて、旅行に出る機会も増えたこともあり、改めて「終の住処をどうするか」ということは話しますね。あとはお互いの両親のこと。私の母も夫の両親も幸いまだ元気なのですが、もし介護が必要になった場合はどうするか、などはたまに話しています。
──そして、心療内科を受診するほど気持ちが落ち込んでしまった際に、御朱印帳にご友人やお世話になっている人にサインをもらうことにしたら、元気が出た、というのも素敵なエピソードでしたね。子供の頃に流行った、サイン帳を思い出しました。
サイン帳、懐かしいですね(笑)。夫が提案してくれて実際にやってみたら、すごく面白かったんです。似顔絵を描いてくれる人、一句詠んでくれる人、座右の銘を書く人、手形を押す人、応援メッセージをくれる人……個性豊かで。今もまだ集めている途中で、50人分くらい集まったところです。面白かったのが、「今はまだ書く時じゃない」と、2人に断られたこと(笑)。2人とも非常に個性的な人なんですけど、そういうリアクションも興味深くて。人間観察の一環になっています。
──ほかに、コロナ禍に心を軽くしてくれたものはありますか?
作中にも描いたんですが、私は2022年夏にコロナに罹ったんです。熱も咳も出て大変だったんですが、治ったときに身も心も軽くなって。たぶん私は、コロナがすごく怖かったんです。それを自分自身が体験して克服したというか、クリアしたような感覚がありました。あの頃、精神的に参ってしまったのは、「私の漫画は本当に必要なんだろうか?」と思ってしまった部分が大きかったんですね。でもコロナを乗り越えて「生活はこれからも続いていく」ということを実感できたことで、「私もまだ描きたいことがある」と思えたし、気持ちが軽くなった気がします。
2024.06.21(金)
文=岸野恵加