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りんごで育った信州牛や手打ちそばなど、信州らしさにこだわる

 夕方6時。客室に、信州の旬を満喫できる、地産地消の夕食が運ばれてきた。

 この宿を訪れたのは5月。五月豆(そら豆)を裏ごしした豆腐のほか、山菜、新玉ねぎ、新生姜、桜エビ、初ガツオなど旬の味覚が並ぶ。細くて美しい信州そばは手打ちだ。

 「新緑」と名付けられた前菜の皿には、竹やガラスなどの小鉢に美しく料理が盛り付けられ、青々としたもみじの若葉が添えられている。

 お酒は自然農法で作った米だけを使用した玉村本店(志賀高原)の「NEW ENGI」や「志賀高原ビール」、地元の米と水尾山の湧水で仕込む「田中屋酒造店」(飯山)の「水尾」、ブナの原始林を抱く雪深い鍋倉山から湧き出す水を使用した「角口酒造店」(飯山)の「北光正宗」、日本古来より引き継がれる「もち米四段仕込み製法」を取り入れた「丸世酒造店」(中野)の「勢正宗」など信州の銘柄がズラリ。ワインも小布施や高山村、小諸など、長野県内のものを取り揃えている。

 夕食は一品一品供されるスタイルで、先付から前菜、椀もの、お造り、揚げ物、メイン料理など9品が並んだ。

 料理長が客前で調理してくれるパフォーマンスも楽しい。料理長は東京の一流ホテルや英国の日本大使館で公邸料理人として腕を振るっていた経験をもち、この宿がめざす「控えめで品のある、ゆかしい宿」を体現する和の味を追求する。

 〆のご飯は新生姜とサクサクの桜エビばら揚げの混ぜご飯。お釜で炊いているからおいしさもひとしおだ。

 会席料理は品数が多いため、お腹がはち切れんばかりになり食べられなくなってしまうことが多いが、この宿の会席料理の味は上品で、女性にもちょうどいい量である。

 おいしいものはなぜか全部食べられるから不思議。サクランボと抹茶プリンのスイーツまでおいしくいただいた。

 夜の時間はラウンジで過ごすのがおすすめだ。日中はコーヒーや信州りんごジュース、ミネラルウォーターなどのソフトドリンクが無料、夜8時から10時30分まではウイスキーや梅酒などのアルコールもフリーで楽しめる。また、チョコレートや信州りんごチップ、ナッツ類やスモークサラミなどの乾き物もすべて無料である。

 館内はスリッパでの移動となるが、木の床の下に温泉水が通され、湯を循環させる床暖房が施されているため、裸足で歩くと足元がポカポカとして、温かい。木と温泉のぬくもりを感じて、リラックスできることだろう。

 よろづや5代目の夢を受け継ぎ、新たな歴史の1ページを刻み始めた松籟荘へ、くつろぎの一夜を過ごしに出かけてみてほしい。

松籟荘

所在地 長野県下高井郡山ノ内町平穏3071-1
電話番号 0269-33-2114
料金 1泊2食付き一人5万3,150円~(2階)、6万4,150円~(1階)
https://shoraiso.com​/

野添ちかこ(のぞえ・ちかこ)
温泉と宿のライター/旅行作家

「心まであったかくする旅」をテーマに日々奔走中。NIKKEIプラス1(日本経済新聞土曜日版)に「湯の心旅」、旅の手帖(交通新聞社)に「会いに行きたい温泉宿」を連載中。著書に『旅行ライターになろう!』(青弓社)『千葉の湯めぐり』(幹書房)。岐阜県中部山岳国立公園活性化プロジェクト顧問、熊野古道女子部理事。
https://zero-tabi.com/

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Column

車で1泊2日の別世界へ、週末ラグジュアリー旅

週末に、心が洗われる別世界へ出かけてみるのはいかが。少し車を走らせれば、そこにはおもてなしの心に満ちた極上の宿が待っている。旅行作家の野添ちかこさんが、1泊2日の週末ラグジュアリー旅を体験。その極上体験をレポートします。

2024.06.08(土)
文・撮影=野添ちかこ