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芸人とファンとの距離感に思うこと

――加納さんはすでにある程度テレビにも出ていて、劇場に出る際には「売れている芸人」の側だと思いますが、かつてライブ中心だった頃と意識の変化はありますか?

加納 昔は肩に力が入っていたなと思います。劇場にしか出ていないときは、「ここでスベったら生きていけない」という感覚がありました。最近は、ちょっとは楽しめるようになってきたんですよね。それは悪い言い方をすれば、劇場がいろんな仕事のうちのひとつになったから。あと、メディアに出させてもらうことで、お客さまがもうパーソナルなところは知ってくださっている。その前提は、やっぱり若手の頃とは違いますね。

――その変化は、ネタにも影響するものですか?

加納 ある程度二人を知っているという前提のあて書きが増えましたね。そういうネタもできるようになってきた。もちろん、そこにあぐらをかいてしまうことには気をつけないといけないけれど。

――最近、芸人さんとファンとの距離感がSNSでも時々話題になっていましたが、加納さんはお笑いファンに対してどういう印象を持っていますか?

加納 個別にいろんな細かいしがらみはその都度あるのかもしれませんけど、お笑いファンって案外リテラシーが高いんじゃないかと思うことは多いですね。ライブ中に騒ぐとか、あまり聞かないですし。

――たしかに、お笑いの告知って、初見の人に対して親切ではないことが多いので、とくに小さなライブは、ある程度その人のネタやキャラクター、ライブの内容をわかっている人が観客になっている感じはありますね。ファンと芸人との距離についてはどう考えていますか?

加納 個人的には芸人がお客さんのことに言及する機会が増えているのは、あまりいい流れではないな、とは思います。「言語化」という言葉が流行って、いまはあらゆることを言葉にする時代になっているじゃないですか。だから芸人がファンに対してどう思うだとか、こうしてほしいだとかの発言や芸人とファンのお互いに対する要求みたいなものが表に出がちな世の中ではありますけども。

2024.05.25(土)
文=釣木文恵
写真=平松市聖