【KEY WORD:ウクライナの危機】

 ウクライナがたいへんな情勢になっています。首都キエフで反政府デモが大きく広がって治安部隊と衝突し、80人以上の人が亡くなりました。そして最終的に反政府勢力がキエフを掌握し、ヤヌコビッチ大統領の政権が崩壊するにいたっています。いったいなぜこのようなことが起きているのでしょうか。

 ウクライナはロシアと欧州のあいだに位置する国で、双方からの影響を強く受けてきました。中世から近代にかけて独立国家が存在していなかったころは、ロシアやポーランド、リトアニアなどいくつかの国の支配に分かれていた時期もあります。20世紀のロシア革命以降はソ連の一部となり、そして1991年のソ連崩壊によってついに独立国となったという経緯をたどっています。

 しかしこのウクライナという国は決して一枚岩ではなく、東半分はロシアの影響力が強く、ロシア語をしゃべる国民の多い重工業地帯。西半分はウクライナ語が使われ、欧州寄りの穀倉地帯と二分されています。政権も、つねに親ロシア政権と親欧政権とのあいだを行ったり来たり、という状況がずっと続いているのです。

EU加盟をめぐっての争いから、国を分けた内戦の恐れも

 今回の事態の直接のきっかけは親ロシア派であるヤヌコビッチ大統領が、かねてから進んでいたEU(欧州連合)への加盟を見送るという政治決断を下したことからです。これに怒った親欧派の人たちが、デモを起こしたということだったんですね。ヤヌコビッチ大統領が追われた結果、獄中にいた親欧派のティモシェンコ元首相も釈放されて、「ウクライナは近くEUの一員になる」と宣言しています。

 とはいえ、このまま無事にウクライナがEU加盟へと進むかはまだわかりません。過去には、親欧に走るウクライナに対してロシアが天然ガスの供給を止めるような事態も引き起こされています。またウクライナの現在の領土であるクリミア半島は、かつてソ連時代に割譲されたもので、ロシアはこの領土を取り戻そうと考えているとされています。だとするとロシアがウクライナをみすみす手放すとは思えません。

 また親ロシア派の人たちが多いウクライナ東半分が、今回の事態に反発することも予想されます。最悪の場合は国をふたつに分けた内戦が勃発する恐れもあるでしょう。直接日本への影響は今のところは大きくはなさそうですが、事態を見守っていく必要がありそうです。

佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『本当に使えるウェブサイトのすごい仕組み』
公式サイト http://www.pressa.jp/

Column

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2014.02.28(金)
文=佐々木俊尚