有藤 そうなんですよ。しかも休載がまったくなかった。すでに『サンデー』『ビッグコミックスピリッツ』両誌で押しも押されもせぬ看板作家でしたから、どちらの編集長も「絶対に毎号載せ続ける」つもりだったでしょうけど、そもそも高橋先生自身が休む気なんて毛頭なかった。こっちがついていくのに必死でした(笑)。一週間があっという間に過ぎるんですよ。「もう次の話の打ち合わせか、行かなくちゃ」とびっくりするくらい。
―― その後『めぞん』は週刊連載になり高橋先生はますます多忙を極めますが、『らんま1/2』連載時に腹膜炎で入院するまで、ただの一度も原稿を落としたことがなかったそうですね。初めて落とした時はあまりのショックに「鼻血が出た」と述懐されています(『るーみっくわーるど35 ALL STAR』インタビューより)。
有藤 それだけのプロ意識とエネルギーをもって漫画に向き合っていらっしゃいますから。私の担当時代のスケジュールでいうと、『うる星』の制作に4日間、『めぞん』には6日間を充てていたんです。でも毎回マシーンみたいに原稿を上げられるわけがないので、予備も1~2日設けていました。
―― とはいえ、1カ月ほぼ余白無しで描き続けていらっしゃった。
有藤 ええ。「めぞんの進行が遅れたので、うる星は3日で上げます!」なんてこともありました。
―― 1回16ページ分の、打ち合わせからネーム(漫画の設計図)、下書き、ペン入れ、仕上げまでを3日で完了するということですよね……?
有藤 はい。そんな時でも先生は絶対にストーリー作りに手を抜きませんから、みっちり打ち合わせしてそのままネームに入って、作画は1日。3日でできるわけです。
森脇 16ページの作画、それもあの密度をほぼ一晩で? 高橋先生は今も速筆ですが……すごすぎて震えますね。
〈「勝者のメンタリティなんです」「“面白い”のハードルを絶対に下げるな」…担当編集者がシビれた、高橋留美子の“レジェンドたる所以”〉へ続く
2024.05.05(日)
文=「週刊文春」編集部