――『MAO』を新連載としてスタートするまでのお話もぜひ聞かせてください。2017年に『境界のRINNE』が完結した後、高橋先生は1年半お休みされました。その間にアガサ・クリスティの全作品を一気読みされたそうですが、それが構想のきっかけに……?

森脇 結果としてそうなりましたが、先生は純粋に「いつかアガサ・クリスティを読破したい」と希望されていたようなんです。ただ読み進めるうちに、こうしたミステリー色が強い作品、なおかつ「自分が本当に好きなダークファンタジーに挑戦したい」という思いが芽生えていったと。

 実は一番のキーワードになったのは、陰陽師の芦屋道満なんです。安倍晴明のライバル的存在でいわば悪役なんだけれど、魅力にあふれている。「そんなキャラクターを描きたい」と強くインスパイアされて企画が形になっていきました。

―― 確かに『MAO』には様々な陰を背負ったキャラクターが登場します。主人公の一人・摩緒は陰陽師の名家・御降家の後継者に抜擢されますが、その実は生贄であり、裏では師匠が兄弟子たちに「摩緒を呪い殺せ」と命じていた。誰が敵で誰が味方なのか、業と思惑が複雑に交錯するミステリアスなストーリーです。

森脇 悪人かと思ったら善人で、そうかと思えば善人が悪人に翻る……。先が読めない「反転」を先生ご自身も非常に楽しんで描かれています。それこそ岡本も、先生とお話しするなかで「そうだったのか!」と驚くような真相があったんじゃない?

 

「まるで実在の人物を紐解くように…」

岡本 実を言うと、一番驚いたのは「決まっていない」ことなんです。

森脇 結末が?

岡本 むしろ原因と言いますか。打ち合わせが「この時、彼はいったい何をしていたんですかね?」という先生の疑問から始まるんですよ。そして「この人はこういう風に考える人間だから、こう動くのでは?」と応酬を重ねていく。実際にあった出来事を推測しているようで、一から“作っている”感じがしないんです。

2024.05.05(日)
文=「週刊文春」編集部