「やりたい」と思う衝動だけがエロではない

 桜木紫乃さんの小説『裸の華』は、舞台で脚を骨折し、引退を決意した踊り子が、地元のススキノで店を開く物語だ。そのモデルとなった人物のステージを、著者本人の粋な計らいで観ることになったのが、私の初ストリップ鑑賞だった。30人ほどで座席が埋まる小さな劇場に、突風が巻き起こる。それはまぎれもなく、プロのダンスパフォーマンスだった。

 桜木さんが北海道に帰ってしまった翌日も、ひとりで劇場の椅子に座り、彼女のステージを観た。別の劇場にまで追いかけて、様々な演目を観た。ドレスでも着物でも男装でも仮装でも、芝居をしても、エアセックスをしても、局部を見せつけるストリップ独特のポーズを切っても、すべて踊りだった。大音量の音に導かれ、自由自在に踊る女のカラダは美しい。やがて皮膚に汗が浮き、飛び散る。肌の色が変わっていく。10日間のうちに、みるみる鍛えられていく筋肉。この人はまぎれもなく生きている。もはや局部などどうでもよかった。

 エロではないと言えば全く語弊がある。その体とセックスをしたいわけではないし、思い出してオナニーをしたいわけでもない。「やりたい」と思う衝動だけがエロではないことが、私にとって大いなる救いだったのだ。

●更年期を迎えた先輩の姿や、“私という商品”を売ることの思い、場内にいる“リボンさん”の存在など、新井さんのエッセイの全文は『週刊文春WOMAN2024春号』でお読みいただけます。

photographs:Chieko Izutsu

新井見枝香(あらいみえか)/1980年東京都生まれ。著書に『きれいな言葉より素直な叫び』(講談社)、『胃が合うふたり』(新潮社、千早茜との共著)。

『週刊文春WOMAN2024春号』

定価 715円(税込)
文藝春秋
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2024.04.17(水)
出典元=『週刊文春WOMAN2024春号』