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 タレント、歌手、俳優、音楽プロデューサーなど、多ジャンルにその才能を生かしている藤井隆さん。その受け答えや佇まいからは、実直な人柄が伝わってくる。舞台作品でも活躍している彼が次に出演するのは、32年ぶりに上演される別役実作の戯曲『カラカラ天気と五人の紳士』。稽古が始まって間もない状況下で、その思いを語ってくれた。

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“自分がつくりあげた芸”というものに対する憧れ

――舞台作品と向き合うということが、藤井隆さんにとってどういう意味がありますか?

 そもそも僕は“ゼロから面白いものをつくる”という、自分の中から生まれる芸を極めることができません。落語家さんにも古典の演目を黙々と経験を重ねて上手になっていく方もいれば、新作を手がける方もいらっしゃいます。どちらが良い悪いということではなく、ジャンルが異なるだけなのですが、それと同じで、僕は何もないところから考えることが向いていないのだと思います。

 なので、自分がつくりあげた芸というものを、立ち話するかのように、さらりとなさっている方に憧れます。ケンコバ(ケンドーコバヤシ)くんとか、小籔(千豊)さんとか、中川家の漫才とか……。才能を発揮している人たちが近くにいるので、僕にとって良い刺激になっています。

 弊社(吉本興業)は“いろんなところへ行って、好きにしなさい”という会社なので、僕らしい道を作ってくれて歩ませてもらいました。そのおかげで若い時にいろんな方と出会えて、そのご縁で舞台のお仕事もいただくようになりました。

 舞台も、テレビも、僕に“やらせてみよう”と思っていただけることが、僕にとって一番かけがえのないことだと思います。お声がけくださる方がいるからこそ、MCという肩書きをいただいてゲストのお話を聞くとか、舞台であれば台詞をいただいて演じることができます。

 自分から“やりたいです”といってできるものではないので、呼んでいただけるからには頑張りたいですね。しかも僕自身、中年になった今、フレッシュ感もなければ、抜群の安定感もないのに、よく声をかけてくださるなと思いますが、そんな僕を“面白そうに出ているね”と言っていただけることが多いので、本当に恵まれていると思います。

――『カラカラ天気と五人の紳士』は“懸賞のハズレで棺桶をもらう”という面白い発端ですが、作品にはどんな感想をお持ちですか?

 家で脚本を読んだとき、どう解釈してよいのか、まったくわからなかったんです。僕は子どもの頃から“わからないことは、すごく恥ずかしいこと”だと思っているんですね。わからなかったら、自分で調べるとか、人に聞くなどして、ちゃんと解決することにしていて。“わからなくてもよし”とするのは絶対にダメだということを親から教わってきたのですが、今回はわからなくても調べようがなくて、困ったなと思いました(笑)。

 せめて準備として、稽古に臨むマナーとしても、台詞を早く覚えておいたほうがいいと思って試みたんですが、一行も覚えられなくて……。途方に暮れてしまって、思わず笑ってしまいました。

 でも読んでいるうちに、いただいている台詞が、僕が演じる1人の人間の台詞だとは思えなくて、登場する7人の、2人で1人分、あるいは3人で1人分のような話のように感じました。もしかしたら自分だけの台詞ではないのかもと! いろいろな解釈があると思いますし、一人で悶々としていても仕方がないので、稽古で解決していきたいです。

2024.04.06(土)
文=山下シオン
ヘアメイク=柳 美保
スタイリスト=奥田ひろ子