「ラーメンを作っているブレーンがいて、どうせならラーメンと同じような作り方をしてみたらどうか、と提案があって実行してみたら、出汁も返しの香りもよくなりました。しかも返しは生返しにしてみました」と島ちゃんは力説した。

 2つの寸胴があり、右の寸胴には肉そば用の出汁、左の寸胴にはそれ以外の出汁を用意している。その2つを併せてつゆを作っていく。

老舗伝承の生返しと出汁を別々にしてつゆを作る

 一般にそばのつゆを作るときは次のような工程となる。

(1)出汁をとる、(2)返しを作る、(3)出汁と返しを合わせて味を砂糖や塩などで調整して完成

 一方、ラーメンでは返しと出汁スープは別々に作っていく。

(1)丼に返しを入れる、(2)これに出汁スープを入れてつゆを完成

 ラーメンではなぜこのような工程になったのかは諸説あるが、一般的にはラーメンは杯数が多いため、一定量のスープをそばつゆのように作ってもすぐになくなってしまう。さらに、ラーメンの場合、出汁スープは常に寸胴で煮込み長時間作っていく必要があるため、どんぶりで返しを合わせる方が合理的だということである。

 しかし、このラーメン方式の作り方をしているそば屋はほとんどなく、私の知る限りでは、立ち食いそば屋では大阪の近鉄南大阪線、大阪阿部野橋駅の階段途中にある「王冠」と新宿「久庵」だけだと思う。

 

 この返しと出汁を分けて、どんぶりに入れることの利点が実は他にもある。それは「お客さんの好みに合わせて、濃いめのつゆ、薄めのつゆ、を作ることができる」という点だ。「麺処盛盛」ではすでにお客さんから、「濃いつゆで」「薄い味で」というリクエストが入るという。

 さらに「麺処盛盛」では「生返し」を使っている。「生返し」は醤油に火入れをしない返しの作り方をいい、火入れする「本返し」より保存期間は短いが、醤油の香りが一段と高くなるのが特徴だ。老舗そば屋でも「生返し」を使うところは多い。この生返しは修行した老舗そば屋からの伝承の味だそうだ。

2024.02.09(金)
文=坂崎仁紀