この記事の連載

SNSとの温度感

――大変なトラブルに見舞われたんですね。ネットサーフィンの合間にXを見る、ということですが、SNSの使い方で意識していることはありますか?

井上 本当にどうでもいいことしか書かないのをモットーにしていますね。Xは14、5年前から始めたんですけど、社会に対する自分の意見を自分が納得するように表明するには、絡んでくる人たちとのやりとりも含めて、それなりの時間をかけなければならない。それは自分には無理なので、「こいつはフォローしててもたいしたことを言わないな」と思われるくらいの温度感でやっているつもりです。

 Xを見ていると気の利いた人生訓とか、処世術みたいなのがいっぱい流れてくるじゃないですか。誹謗中傷とかヘイトを撒き散らしている人たちは論外だけど、「気の利いたこと」をしたり顔で呟くっていうのもイヤなんですよね。自分は絶対そういうことは言わない、と決めています(笑)。

――そういう心持ちでされていたんですね。井上さんが投稿する猫や長野での暮らしを見ると、ファンとしてはほっこりします。

井上 SNSで読者からの感想に触れられるのは、私も嬉しいですよ。

 私は本当にボンクラで、政治や世の中のことを結構知らなかったんですけど、SNSのおかげで理解できるようになってきました。知らないと怒れないけど、理解できるようになると世の中に対して怒りを感じるようになるんですね。うちはテレビがないから、情報収集はもっぱらSNSです。

――さきほど自殺ほう助について、「ニュースで見た」とお話しになっていましたけど、テレビではなくwebのニュースでご覧になったんですか?

井上 そうだったと思います。東京に住んでいた頃はテレビがあったんですよ。5、6年前に長野の山の中に住むようになったら、テレビのアンテナを一生懸命伸ばさないとならなくなって。じゃあ別にいらないやって、そこから見なくなったんです。

 それからは、プロジェクターで映画や動画を見るようになったんです。だけど、お正月の昼間に「さあ映画をみよう」と思ったら、暗くならないので見られなかったんですよね。人が絶対に通らない場所に住んでいるからカーテンがなくて。あれは盲点でした(笑)。

インタビュー【後篇】に続く

井上荒野(いのうえ・あれの)

1961年東京都生まれ。1989年同人誌に掲載する予定だった小説『わたしのヌレエフ』をフェミナ賞に応募し、受賞。2004年『潤一』で島清恋愛文学賞、2008年『切羽へ』で直木賞、2011年『そこへ行くな』で中央公論文芸賞、2016年『赤へ』で柴田錬三郎賞、2018年『その話は今日はやめておきましょう』で織田作之助賞を受賞。著書に小説家の父について綴った『ひどい感じ 父・井上光晴』や、父と母、瀬戸内寂聴をモデルに描いた小説『あちらにいる鬼』なども。

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次の話を読む「子種が欲しいと頼まれたら引き受ける? と夫に聞いたら…」井上荒野が家族について考えること

2024.02.12(月)
文=ゆきどっぐ
撮影=山元茂樹/文藝春秋