ヴェンダース 小津は僕のスピリチュアルマスターであり、真の映画を作った人。アメリカ的な帝国の一員にならず、自身の独特の帝国を築きあげたんだ。ただ、今回の映画は小津とは撮り方がまったく違う。

 小津はカメラを固定して撮る人だったけど、僕は手持ちで撮るのが自分のスタイル。小津が好んだ50ミリレンズも使ってない。

 意識したとすれば、映画の画角を3:4にしたところと、女性の描き方。今回僕は女性たちをモダンで先進的な存在として描いていて、小津の映画もそうだった。

 そして、今回僕が撮った東京は小津の死から60年経った東京だ。60年後の東京がどんな街になったのか、そこに暮らす人々や家族のあり方はどう変わったのか、変わっていないのか。そこは少し考えたかもしれない。

 

――2023年は小津安二郎生誕120周年でもありますね。

ヴェンダース メモリアルイヤーにこの映画が公開されることはとてもうれしいことだと思う。

なぜ冴えない中年男性を主人公にするのか?

――ところで、監督の映画は、『ベルリン・天使の詩』(87年)を筆頭に、ちょっと冴えない中年男性が主人公の物語が多いように感じます。おっしゃったように、モダンな女性との対比という部分もあったりするのでしょうか。

ヴェンダース 『ベルリン・天使の詩』の主人公は天使だから、正確にいえば違うんだけど(笑)。でも、彼が人間になるときは冴えない中年男性であるのは確か。なんでだろう。成功している人の物語を作るのはすごく難しいからじゃないかな。どうすれば成功するのか僕自身が想像つかないんだ。

……あ、でもドキュメンタリーで撮った人で1人いる。『ローマ法王フランシスコ』(18年)。彼は、ある意味では成功者だ(笑)。

 ただ、フィクションのキャラクターとしては、成功している人はつまらない。人生に躓いたりするから物語が面白くなる。成功は魅力的ではない。間違っているかな?(岡村ちゃんを指し)僕は彼の映画を撮ったほうがいい? 彼は成功してる人?

2024.01.14(日)
文=辛島いづみ
Photographs=Takuya Sugiyama