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母親がラーラーを拒絶

 MWGによると、その後、ジアジアはラーラーが近づくと離れるようになり、10月にはラーラーを追い払うなど、拒絶反応も示しました。ラーラーは11月中旬に、ジアジアからひとり立ちしました。2歳3カ月となった頃です。親離れの日程は、MWGと中国の専門家が相談して決めました。

 パンダは単独で生きる動物なので、子どもが成長すると、母親が攻撃的な態度を取って、ひとり立ちを促すことがあります。そのため飼育下では計画的に親離れさせます。上野動物園のシャオシャオとレイレイは、1歳8カ月だった2023年3月19日(日)の夕方を最後に、母親と完全に離れました。ちなみにパンダの父親はまったく子育てしないので、父子は生涯、一緒に暮らしません。

最終公開日は渡航の1カ月前

 親離れを済ませて12月に中国へ渡る予定だったラーラーですが、中国行きは2024年1月16日(火)に延期するとMWGが2023年11月12日(日)に正式に公表しました。ラーラーが入る輸送箱は、国際航空運送協会(IATA)のガイドラインと中国の専門家のアドバイスに基づきながら、約2週間かけて作られました。輸送箱のおよそのサイズは、長さ1.7m、幅1.1m、高さ1.3mです。輸送箱が11月27日(月)にラーラーのもとに届くと、早速、ラーラーが輸送箱に入る訓練が始まりました。

 ラーラーは2024年1月16日(火)にこの輸送箱に入り、約15~16度に保ったエアコン完備のトラックに乗ってチャンギ空港へ向かう予定です。輸送箱には板を取り付けますが、エサをあげる時など必要に応じて取り外すことができます。

 中国行きの延期に伴い、最終公開日も渡航の約1カ月前の2023年12月13日(水)に延びました。その後、ラーラーは渡航のために隔離され、検疫を受けています。渡航に向けたワクチンは、すでに接種済です。

 2023年2月にパンダを中国へ送り出した上野動物園と和歌山県のアドベンチャーワールドは、渡航の1~2日前までパンダを公開していました。パンダを屋内で隔離しながらガラス越しに公開できるエリアがあり、動物検疫所の許可も得られたためです。でもリバー・ワンダーズには、そうしたエリアがありません。なお、輸出相手国(この場合は中国)が定める検疫条件は国によって異なり、屋外で検疫できる国もあります。

父親は四川大地震で被災

 ラーラーの父親のカイカイは、2007年9月14日に四川省の臥龍で生まれ、生後7カ月の2008年5月12日に四川大地震を経験。カイカイはおびえて高い場所に登ったまま、しばらく降りてこなかったそうです。臥龍の基地は大きな被害を受けたので、カイカイは雅安基地に移されました。ジアジアは2008年9月3日に雅安基地で生まれました。

 カイカイとジアジアは、シンガポールと中国の国交樹立20周年(2010年)を記念して、2012年9月6日に雅安からシンガポールへ来ました。滞在は10年間の予定でしたが、中国野生動物保護協会(CWCA)とMWGは2022年9月2日、パンダに関する協力協定を2027年まで5年間延長したので、この2頭には引き続きシンガポールで会えます。

 上野動物園にいるリーリー(力力)とシンシン(真真)も2011年2月に雅安基地から来日して、10年間の滞在予定が5年間延長されています。2頭の子どもであるシャオシャオとレイレイは前述のようにラーラーと同い年ですが、渡航の日程は今のところ明らかになっていません。

中川 美帆 (なかがわ みほ)

パンダジャーナリスト。早稲田大学教育学部卒。毎日新聞出版「週刊エコノミスト」などの記者を経て、ジャイアントパンダに関わる各分野の専門家に取材している。訪れたパンダの飼育地は、日本(4カ所)、中国本土(11カ所)、香港、マカオ、台湾、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、カナダ(2カ所)、アメリカ(4カ所)、メキシコ、ベルギー、スペイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、フィンランド、デンマーク、ロシア。近著に『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)がある。
@nakagawamihoo

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2023.12.28(木)
文・撮影=中川美帆