このツアーが始まる直前の4月20日、小田はアルバム「どーも」を出した。当初は発売も心配されたが、前年からレコーディングが行われ、作業は終わっていた。「どーも」というとぼけたタイトルについて、小田は「俺がステージで叫ぶ時みたいに“どぉ~もーっ!!”って、この一言で、いきなりみんなの懐に入って行けるというかね」と語っている。なにより、〈挨拶する人、渡す人がいてこそ成り立つ言葉〉である。自己表現で完結していた音楽作りから、人に聴いてもらう、人に手渡す音楽へ、まさにそれを象徴する言葉とも言えた。
同時に、「クリスマスの約束」に挑戦し、多くのミュージシャンと交流し、世界を広げた小田の10年間が凝縮されているアルバムとも言えるだろう。多彩であると同時に、言葉の重みが加わり、聴き応えのあるアルバムである。
全10曲中、依頼されて作った楽曲は5曲あるが、小田の場合、それはあくまでもきっかけであり、歌には小田の想い、こだわり、表現が色濃く織り込まれている。たとえば、ドラマ「獣医ドリトル」の主題歌である「グッバイ」は、「風」が印象的な、不思議な味わいの歌だ。
「hello hello」は被災した三宅島の少年に語りかけている詞だが、それを超えて訴えかけてくるチカラがある。
作詞するときに、必ず思い浮かぶもの
小田は「hello hello」をつくるにあたって、「三宅島のどこまでも続く白い道」を思い浮かべたと語っている。イメージの白い道だ。その道の彼方には夏の空が広がる。空と風。小田の歌には欠かせないものだ。そこに、小田の想像(創造)力の源があるのだなと感じる。実際、NHKの「100年インタビュー」で、それを問われ、「さあ、歌詞を書こうと思うと、必ず、とりあえず、空と風が浮かんでくるんだよね」と話している。さらに「空を見て、何かを感じるんですか?」と訊ねられ、こう答えている。
「何を感じてるんだろうねえ。いま見ている空が美しいっていうのもあるんだけど、前にもこういう空を見たんだろうなって思うんだろうね。あの日と同じようだけど、あの日といまとは違うんだって、そういうことを考えるタイプなんだよ」
2023.11.26(日)
著者=追分日出子