トークショーでは、神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し、大学で教鞭を執っていたという、作家の経歴としては異色の伊与原さんの来し方について、若い頃からミステリー小説を読むのが好きで(ちなみにいちばんの愛読書は綾辻行人さんの『十角館の殺人』と『時計館の殺人』とか)、実験の合間に思いついたトリックでミステリーの新人賞へ応募したところ、作家デビューが叶ったことなどが語られました。もともとは純粋なミステリーを書きたいと思っていたものの、科学や研究者の世界から作品のインスピレーションを得ることがやはり多く、やがて『月まで三キロ』や『八月の銀の雪』へと繋がっていったそうです。
さらに『宙わたる教室』については、大学時代の恩師から面白い実験を発表した定時制高校の科学部があることを知らされたことがきっかけで興味をもったことや、実際そこで調べてみると、想像していた以上に面白いアイディアで進められている実験で、「なるほどこれは小説になる!」と感じて書きはじめたこと、ただし、実際に科学部を取材したのは中盤に差し掛かった頃で、それゆえフィクションの奥行きを広げることが出来たなどと語られました。
続く参加者からの質問コーナーでは、
Q.『八月の銀の雪』が好きです。地球の核の話が出てきますが、この科学の話題を書こうというのを先に決めますか? それともストーリーが先でしょうか?
伊与原 場合によりますが、『八月の銀の雪』では、女性の地震学者(インゲ・レーマン)の人生を物語に取り入れようと最初に決めました。そこにフィットするような登場人物とストーリーを、頭の中でガチャガチャと組み合わせながら考えるという感じです。
Q.私も小説を書いているのですが、なかなかうまく人物が書けません。人物を書く時のコツはありますか?
伊与原 なかなか苦労するところではあると思いますが、まずは周りにいる人をよく観察してみることが基本だと思います。自分が知っている人を何人か組み合わせてモデルにすると、人物が動き出してくれるのではないでしょうか。がんばってみてください。
2023.11.23(木)