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「死臭を嗅ぐ仕草をしてほしい」

──具体的にどのようなシーンで、どんなお芝居を意識されたのでしょうか?

 野外での殺人現場を訪れたときの嵐子のふるまいです。そのシーンに入るときに、三池監督から「死臭を嗅ぐ仕草をしてほしい」と言われたんですけど、イメージしただけでちょっと常軌を逸していますよね。そういう「ちょっと普通じゃない」仕草が、まるで普通に見えるように演じることで、ある種の狂気性や違和感のようなものを醸し出せるように演じました。

 どの程度の臭いなのか、どんなふうに演じたらいいのかは、かなり悩みましたね……。いろいろ調べて、相当臭いがきついということまでは頭で理解し、そこから先は脳内でイメージをふくらませて、目をつぶって自分の世界に入りながら演技につなげました。

 あとは上司に意見を求められたときに、ちょっとけだるそうに頭をかきながら立ち上がる、普通はやらないような、無造作で不器用な面も出すように意識しました。見方によっては、ちょっとネジが緩んでいるようにも見えるところが出せたらいいなと思いながらやらせていただきました。

 たとえば、亀梨さんが演じた二宮彰と対峙したときに、ちょっとニヤリと笑いながら「サイコパスってそういうふうに捉えるんですね」と言うシーンがあります。普通の人はサイコパスと2人きりになったときに、こんなふうに言えないですよね。でも三池監督の求める嵐子は、サイコパスにも堂々と対峙できる人物だと思ったので、お互いがサイコパス同士みたいなつもりで、やらせていただきました。

 今作では、追う者と追われる者がどんどん入れ替わり、誰が怪しくて誰が犯人なのか複雑に絡み合ってストーリーが進んでいきます。そのなかで私が演じた戸城嵐子は、かなり早い段階から二宮が事件のカギを握る人物だと的を絞り、執拗に執着します。

 二宮をターゲットに絞った時点から二宮への執着が始まり、そこから事件に対する執着も深まっていくわけですが、執念ではなく、“執着”と呼ぶほうがふさわしいような演技は常に心がけました。

 二宮は最初から明らかにサイコパスですけど、嵐子も同僚の刑事にサイコパスの特徴を話しているときに、「何だ、それはおまえのことか?」と聞かれるくらい、素質としてサイコパス要素がある人物です。そこは根底におきながら演技しました。

2023.11.29(水)
取材・文=相澤洋美
写真=佐藤 亘
ヘアメイク=浦上祐子(アーツ)
スタイリスト=金順華