前述のとおり、そのふたつのジャンルは本来、水と油と言っても良いかもしれない。

 基本的に青春小説は若者向けに書かれており、学校などの閉鎖された環境を舞台として物語が展開されることが多い。その一方で、警察小説の多くは現実の警察組織に立脚し、開いた社会を舞台とした小説だ。相反する特徴をもっているはずなのだが、堂場は父親を憎み続けている警察官を主人公にすることで、両者をひとつの物語にすることに成功している。

 堂場がこれまでに警察小説を数多く書いてきたことに加え、野球小説でデビューしており、その後もスポーツ小説を定期的に発表していることが理由だろう。スポーツ小説は主人公こそ若者ではないものの、アスリートの“終わらない青春”を描いたものが多いからだ。“終わらない青春”に対し、中高生の頃から父親への憎しみを抱いていた本書の主人公が、三十半ばになってから巨大な権力を持つ父親に立ち向かう姿はまさに、“遅れてきた青春”そのものだろう。

 堂場作品が警察小説として優れていることは改めて述べるまでもなく周知の事実だが、それに加え、青春小説としての側面は若者にも十分にオススメできる、ということを示したのが本書ではないだろうか。

 滝上の父親への感情は、父親の地位が高すぎるなど、特殊な環境であったこともあり、読者が身近に感じるのは難しいかもしれない。しかし彼が故郷に対し抱いている感情については、身近に感じるひとも多いのではないだろうか。古くさい商店街に立ち並ぶ低いビル、時を経ても変わらない住宅街、移動するには自家用車、幹線沿いの巨大なショッピングセンター……そして東京に行くまでの時間的金銭的コスト。

 一方で、東京が持つ魅力は底知れない。

 出会いも娯楽も文化も勉強も仕事も、その魅力には果てがない。だから東京への憧れを抱いたまま大学進学を理由に上京し、そのまま得体の知れない東京の一部になってしまうひとは実に多い(筆者のように出戻ってくるケースもあるが)。

2023.11.24(金)
文=坂嶋 竜(ミステリ評論家)