ソポクレスが戯曲「オイディプス王」を書いた古代ギリシアの昔から、父と息子との確執・対決は現実においてもフィクションにおいても存在し続けてきた。それはフロイトがエディプスコンプレックスを提唱して以降も変わらない。「STAR WARS」におけるダース・ベイダーとルーク・スカイウォーカーとの確執を筆頭に、小説・マンガ・映画・ゲームなどと、様々なエンターテインメントにおいて採用され続けている普遍的なテーマとなっている。

 乗り越えるべき壁を設定し、それを乗り越える過程を描くのが青春小説のセオリーだが、父親という存在は読者にとって身近であり、人生で最初にぶち当たる壁となることも多いため、テーマとして使われやすいのかもしれない。だが多くの作品で扱われているということはすなわち競争が激しいことを意味している。それでも堂場瞬一はそのような状況などお構いなしのように青春小説的テーマを取り上げ、警察小説の枠組みの中へと組み込んで見せた。通常であれば主人公が未熟な中高生である青春小説と、複雑な大人の世界を描く警察小説とは相性が良くないのだが本書ではその難題をしっかりとクリアしている。それを可能とした背景には本書刊行時にちょうどデビューから二十年を数えた小説家としてのキャリアがあるに違いない。

 堂場瞬一は二〇〇〇年、野球小説『8年』で第十三回小説すばる新人賞を受賞して翌年デビューしている。デビュー作こそスポーツ小説だったものの、二作目として警察小説を発表し、そのまま警察小説の第一人者として走り続けている。ドラマ化もされた「刑事・鳴沢了」シリーズを始め、「ラストライン」「警視庁追跡捜査係」「警視庁犯罪被害者支援課」といった警察小説のシリーズを続けつつ、野球や陸上、ラグビーなどを主題としたスポーツ小説も多く手がけてきた。速筆なため発表された作品数は百を優に超えており、あと数年内に二百冊の大台へと到達するだろう。

2023.11.24(金)
文=坂嶋 竜(ミステリ評論家)