多忙を極めながら、深夜の公園で練習を…

 酒の場でのそんなやりとりが2年ほど続いたあと、こんなに言い合っても解決しないなら一緒に作品をつくるか、ということになった。何度も話し合っていくなかで、彼とならガッツリ四つに組んで、ダンスの根源的な可能性を探求できると思った。

 森山未來とダンス表現の未知のフロンティアを模索するユニット「きゅうかくうしお」を立ち上げた。日常のなかで生まれるあらゆる現象・感情を創作の起点にし、自由に思考・議論しながらダンスの可能性を探ろうという試みだ。ユニット名は、もしも子どもが生まれたら付けたい名前が、僕は「きゅうかく」、未來が「うしお」だったことに由来する。

 僕のなかで、未來を映画監督にしたいというイメージがあった。彼はそれまでダンスの発表会で小さな作品をつくったことがあるくらいで、芸能人になってからは機会に恵まれなかったが、一からものをつくって演出できる人になれるという確信があった。お互いものすごく多忙な時期だったが、深夜に家の近くの公園に集まってはストイックに稽古を重ねた。

 だから、ユニットの初舞台『素晴らしい偶然をもとめて』(2010)では、未來に一緒に演出の役割を担ってもらった。

 会場は、いまはなき原宿のギャラリーVACANT。ふたりで原宿の街を歩いて、お客さんをひとり捕まえて舞台につれてくるところからスタートする。文字通り“素晴らしい偶然をもとめて”お客さんとの偶発性から僕たちのダンスをはじめたのだ。小さい空間だったこともあり秒で完売した公演は、舞踏の新しい試みとして評判を呼んだ。

 気づけば、この公演を機に、もはや互いに言い合うことはなくなっていた。自分のしたいことがもっと外側に向いて何ができるかを建設的に考えるようになったのだろう。何か相手に言うときもダメ出しではなく、「こうするのもいいかも」と手助けする言い方になっていた。

 森山未來というアーティストにとことん向き合ったことで、振付家として対峙する俳優やダンサーたちのこだわりをどう理解してコミュニケーションをとったらいいのかも学んだ気がする。それぞれが持つ強烈なこだわりと可能性をどう表現に生かしていくか、クリエイティビティの本質を知った。盟友といえる真の表現者に出会えたことは、人生の大きな宝だと思っている。

※辻本知彦の「辻」は一点しんにょうが正式表記。

生きてりゃ踊るだろ

定価 1,540円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

2023.11.25(土)
著者=辻本知彦