話は逸れるが、脚本を書く前に冲方先生にお会いする機会を頂いた。緊張で何を話したか正直あまり覚えていない。が、穏やかで静けさを湛えた朗らかな笑顔が印象に残っていて……本作を読みながら、勝手に義仙は冲方先生のイメージで読み進めていた。普段は穏やかなのにやるときはやる風のような義仙だ(実際、義仙を演じて下さった舘ひろしさんには台本以上に渋さと深みを増して頂いた)。

 小説では二人の旅はまだまだ続いていくようだが、ドラマでは最終回にドラマとしての結末をつけねばならず、私は、了助が光國を許さぬまま、それでも共に生きていく、

 人はまちがえるものだから──となんとかドラマとしてピリオドを付けた。

 はたして冲方先生はどう思っていらっしゃるのか。

 柔弱い私は、伺えないままだ。

 ドラマにするにあたって、尺や撮影上の様々な理由で試行錯誤の上多々アレンジして脚本を書かせていただいたのだが、一度も冲方先生から直しの要求はなく、私にとっては『剣樹抄』という物語の中で自由に泳がせて頂いたような贅沢なお仕事だった。冲方先生の器の大きさには感謝しかありません。

 果たしてこの先、冲方先生はどんな結末に導いてくださるのか。ここからは仕事ではなく、一読者として「まいったな」とつぶやける日を心から楽しみにしている。

剣樹抄 不動智の章(文春文庫)

定価 880円(税込)
文藝春秋
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2023.10.27(金)
文=吉澤智子(脚本家)