三日月なのに1日!? と困惑した明治時代の人々

『明治おばけ暦』の舞台風景。夜空のセットには、くっきりとした三日月が

 明治5年11月9日、日本政府は突然、改暦を発表。翌月12月3日を新暦の明治6年元旦と定めます。旧暦は月齢がそのまま日にちに反映されるので、3日といえば三日月。明治6年の元旦の夜空には、三日月が浮かんでいたことでしょう。そして新暦の日付は、月の運行とはまったく関係のないものになったのです。

 改暦の背景には、当時の政府の財政難が挙げられます。旧暦には閏月が入る年があり、ちょうど翌年は13ヶ月の年に。12月初めに新暦に切り替えてしまえば、その年の12月分と、翌年の閏月分、合わせて2ヶ月分の役人への給与を払わなくて済む……。そんな政府の経済事情が、改暦を急いだ理由、というわけ。

 私が2011年に観た舞台作品、『明治おばけ暦』は、改暦に伴った明治時代の庶民の大混乱と共に、お仕着せの新暦に抵抗する人々の反骨精神が描かれた、とても興味深い内容でした(人気ドラマ「ゲゲゲの女房」や「八重の桜」で知られる脚本家、山本むつみさんの作品です)。当時、暦に不可欠だった毎日の吉凶の掲載も、日本政府によって禁止されたといいます。合理主義精神の台頭と共に、否応なく潰され、失われていくものがあります。「迷信だらけの暦を廃止して、政府発行の正しい暦だけを使うべし」という発令に対し、月の運行を基にした旧暦・陰暦を使い、日々の吉凶も記したモグリの暦がゲリラ的に世の中に出回りました。それらが『おばけ暦』と呼ばれたそうです。

 当時の時代背景は、約140年後の“今”と似通ったものがあるのではないでしょうか。最近、月の満ち欠けを記したカレンダーや日本古来の二十四節気を記した暦が、密かなブームとなっています。「暦」は日々の営み、そして世界を支える枠組みのようなもの。2014年は、太陽暦と太陰暦(月の暦)が元旦に一致する珍しい年。月暦では、新月こそ月の初めの1日であり、植物の成長になぞらえると「種」に相当。それは物事の始まりを象徴しているのです。

 元旦の夜、あなたの未来に向けて新しい「種」を蒔きましょう。そしてそれを月の満ち欠けとともに、大切に育てていってください。約140年前の日本での改暦の顛末に思いを馳せつつ、2014年は折に触れ月を眺め、月の満ち欠けを意識して暮らしてみませんか。

岡本翔子 (おかもと しょうこ)
占星術家。ロンドンにある英国占星術協会で心理学をベースにした占星術を学ぶ。CREAでは創刊号から星占いを担当。月に関する著作・翻訳も多く、月の満ち欠けを記した手帳『MOON BOOK』(アスペクト刊)は、10年続く静かなロングセラーに。CREA WEBでは「岡本翔子のほぼ日めくりMoon Calendar」も好評連載中。
公式サイト okamotoshoko.com
公式ブログ ameblo.jp/okamotoshoko
★毎年好評の月の満ち欠けを記した手帳、『MOON BOOK 2014』が好評発売中。

Column

岡本翔子の「月」にまつわる暮らしの手帖

「岡本翔子の日めくりMoon Calendar」を連載中の岡本翔子さん。このコラムでは毎月1日に、「月」を身近に感じながら、季節の移ろいをこまやかに感じ取り、日々の暮らしを豊かに営むためのヒントをご紹介します。

2014.01.01(水)